相続でもめないために!生命保険の受取人事情「遺言で変更できる?受取人がいないときはどうする?」
生命保険の受取人は誰でもいいの?
親族でない第三者でも受取人になれるの?など、素朴な疑問を整理してお伝えします。
■生命保険の受取人の範囲
保険金の受取人として指定できる人の範囲には原則があります。何故かと言うと、生命保険は自分と家族を守るための生活保障であるという本来の考え方により、その範囲を親族などの近しい人に限定しているのです。
しかし、近年、様々なライフスタイル、多様な価値観から所謂、原則とされている人以外を受取人に指定できるようになりました。
生命保険の受取人事情について解説します。
○原則は配偶者と2親等または3親等以内の血族
まず、配偶者は必ず受取人になることができます。2親等以内の血族とは、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹を指し、3親等以内になると、これに伯父(叔父)、伯母(叔母)、甥、姪が含まれます。また、1親等以内の姻族(義父母、義理の子)も受取人になれる場合があります。
3親等の血族や1親等の姻族を受取人に指定できるケースは、2親等以内の血族がいない(既に死亡しているなど)場合という条件が設けられていることもあります。
保険金受取人になれる人の範囲は、法律で決まりがあるわけではなく、各保険会社が一定のガイドラインに従い金融庁に申請をして定めています。従って、保険会社により受取人の範囲が異なることがあります。
上記の原則以外の人を受取人とすることを、一般的に第三者受取人契約といいます。この場合の第三者とは、内縁関係(事実婚)、従兄弟(従姉妹)、法人などを指します。
内縁関係(事実婚)のパートナーを受取人としたい場合には、配偶者の有無、同居期間、生計を一つにしているかなどの証明が必要であることや、保険金額に制限を設けている場合もあります。
また、昨今のライフスタイルや価値観の変化に伴い、同性カップルのパートナーを受取人と認める保険会社も増えています。同性パートナーを受取人にする場合は、自治体発行の「パートナー証明書」またはそれに代わる書類の提示が求められることがあります。
諸条件は保険会社により異なりますので、第三者を受取人としたい場合は、必ず保険会社に確認しましょう。
生命保険金の受取人は必ずしも一人である必要はなく、複数人を指定することも可能です。
例えば、被保険者に配偶者と子どもが2人いて、3人を受取人にしたい場合は、次のように保険金の受け取り比率を予め指定することで、複数人指定が可能となります。
例:配偶者50%、長女25%、長男25%
■生命保険金の受取人を変更するには
生命保険金の受取人の変更は、生命保険金の支払事由が発生するまではいつでも可能です。
○受取人を変更できるのは保険契約者
結婚や離婚などの家族構成の変化や、その他諸事情により、生命保険金の受取人の変更が必要になることがあります。生命保険金の受取人の変更の申請ができるのは保険契約者です。被保険者や受取人が変更を保険会社へ通知することはできません。
○受取人変更の意思表示の相手は保険会社
受取人変更の効力が発生するのは、通知が保険会社へ届いた時ではなく、通知を発した時に遡って有効です。
ただし、契約者が変更を通知する前に保険金の支払事由が発生して、受取人の請求により保険会社が保険金を支払ってしまったとしても、その支払いは有効なものとなります。
通知前に保険会社が受取人変更の意思を知らないのは当然なので、保険会社に責任はないということです。
○保険金受取人の変更は被保険者の同意が必要
契約者と被保険者が異なる保険契約で、受取人の変更をする場合は、被保険者の同意が必要です。また、契約者と被保険者が同意していれば、元の受取人の承諾は必要ありません。
■遺言でも保険金受取人を変更できる
遺言によって、保険金の受取人を変更することもできます。その場合、保険契約者の相続人が、その旨を保険会社へ通知することでその効力が生じます。
○遺言で受取人になれる人
遺言で受取人を変更する場合も、新しい受取人として指定できる人は、基本的に生前に受取人を変更する場合と同様です。被保険者の親族、保険契約の規約や約款に定めがある第三者などです。
生前ではなく、あえて遺言により受取人の変更をするからには、何らかの事情がある場合も多く、トラブルを避けるためにも遺言で受取人変更をする際には、予め保険会社へ変更可能な受取人の対象範囲を確認しておいたほうが良いでしょう。
○遺言書による保険金受取人の変更で注意すべきポイント
遺言書による受取人の変更は、受取人の対象範囲を確認しておくことはもちろんですが、その他にも注意すべき点がありそうです。
・有効な遺言書の作成 (遺言書自体が無効であるとその効力が生じない)
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言があります。
特に、自筆証書遺言の作成は、証人も不要で、費用も掛からないため、身近な遺言書というイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、自筆証書遺言として成立するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。遺言が無効となってしまわないように、必ず確認してください。
公正証書遺言は、公証人の確認の下で遺言書を作成しますので不備は起こりにくいというメリットがある反面、手数料がかかること、公証役場での手続きが必要なため時間がかかるなどデメリットがあります。
どちらの方法でも構いませんが、有効な遺言書となるように作成をしてください。
・遺言書自体の存在が知られていない(相続人が遺言書の存在を知らないと意味がない)
遺言書の存在を信頼できる身近な人に伝えておくことが大切です。
死ぬまでは遺言書を見られたくない、破棄されたら困るなどの理由で遺言書の保管場所を誰にも言っていない、という方もいるかもしれませんが、見つからないことにはどうにもなりません。遺言書を発見、執行してもらえるような準備も重要なポイントです。
・受取人の変更通知が間に合わない(保険会社へ変更の通知が遅いと手遅れになる)
遺言による受取人の変更は、相続人が保険会社へその旨を通知することで効力を発します。ですので、相続人が保険会社へ変更通知をするよりも前に、元の保険金受取人が支払い請求を行えば、元の受取人が保険金を受け取れてしまいます。
■生命保険金の受取人がいないとき
保険金の受取人がいない場合とは、次のようなケースが考えられます。
・受取人が既に死亡している
・受取人に指定できる人が誰もいない
それぞれについて考えてみましょう。
・受取人が既に死亡している
被保険者の死亡により、保険金受け取り事由が発生した際に、既にその受取人が死亡していた場合は、受取人の法定相続人が保険金を受け取ることになります。もし、法定相続人がいない場合は、国庫に帰属されます。意図せず保険金が国庫に入ってしまうのは残念です。受取人が先に死亡した場合は、速やかに受取人変更の手続きをしておきましょう。
・受取人に指定できる人がいない
受取人に指定できる親族や第三者が見つからない場合は、成年後見人を受取人に指定することが可能な場合があります。
成年後見人とは、裁判所に選任された支援や援助を行う人のことです。
身寄りのない方が認知症などにより判断能力が不十分となってしまった場合など、成年後見人を保険金の受取人としておくことで、医療費や介護費用を保険金から充当することができます。万一のときのために入った保険が、いざという時に使えなくては保険の意味がありません。せっかくの保険を無駄なものとしないために、検討の余地はありそうです。
■まとめ
保険金受取人に指定できる人は、法律で定められているわけではないため、保険会社によってその範囲は多少異なります。
そして、保険金受取人の変更は、保険金の支払事由が発生するまでは、いつでも契約者が保険会社へ通知することにより可能です。
遺言書で受取人を変更することも出来ますが、その場合は、確実に遺言書があることを相続人に知ってもらう工夫が必要です。