家族信託はどうして認知症対策になるの?
高齢者が認知症になり判断能力が低下すると、預金を引き出せなくなったり不動産の売買契約が結べなかったりと、自分の財産を自分で管理することが難しくなります。
認知症になる前に対策を取っておかなければ、生活に必要なお金を引き出すことができず、家族がお金を立て替えるか、家庭裁判所に財産を管理してもらう「成年後見制度」を利用することになります。しかし、成年後見制度を利用すると、毎月最低でも2~3万円の管理費を支払わなければなりません。
このような問題を解決するために、認知症になる前に「家族信託」を活用して対策を取っておく必要があるのです。
今回は、認知症対策として家族信託を活用する例を2つご紹介します 。
事例① 老後の生活資金を確保したい
5年前に妻を亡くした、Aさん。Aさん名義の自宅と預金2,000万円があり、一人でのんびりと過ごして来ました。しかし、近頃、物忘れが多くなってきたこともあり、自分が認知症になった後の財産管理について心配に思うようになりました。
そこで、結婚して家を構え近所に暮らしている長男と、今後の生活について考えてみることにしました。
長男から「家族信託はどうか」の提案がありました。Aさんも、以前から気になっていたので、「家族信託」という制度が利用できるか、税理士に相談してみました。
そして、以下のような「信託契約案」を作ってもらいました。そして、以下のような「信託契約案」を作ってもらいました。
このような信託契約をしておくことで、Aさんは亡くなるまで長男に自宅と預金の管理をしてもらいながら自宅に住み続け、預金の中から生活費等の支払いを受けることができます。
では、財産を信託することが、なぜ認知症対策につながるのでしょうか?
例えば、自宅と預金がAさん名義のまま、Aさんが認知症になってしまったとしましょう。
この場合、Aさんの判断能力の低下が財産管理に直接影響を及ぼすことになり、預金が凍結されてお金を引き出すことができなくなったり、自宅の売買契約が締結できなくなったりするのです。これではAさんの生活費を確保し、介護施設の入所費用を取得するために自宅を売却することができません。
しかし、家族信託を契約し、信託財産を受託者(長男)の名義に変更しておくと、たとえAさんが認知症になったとしても、預金が凍結されることがなく、不動産の売買契約も長男がAさんの代わりに行うことができるのです。Aさんは、「家族信託」という制度の便利さを強く感じ、長男に自分の財産を預けることにしました。
これにより、Aさんが認知症になった後も、預金の中から生活費等の支払いを受け続け、自宅を売却して介護施設の入所費用を確保することができます。
事例(2)不動産経営を子どもに継がせたい
不動産経営をしているBさんには、2棟の賃貸不動産と預金3,000万円があります。Bさんは不動産経営を長男に継がせたいと考えていますが、長男は不動産経営に興味がないようです。このままでは、自分が認知症などの病気になったとき、誰に経営を任せれば良いかが心配です。
また、近所で不動産経営をしているCさんが「賃貸不動産が古くなってきたから大規模修繕をしたかったのに、年齢的に銀行からお金を借りるのが難しく、結局修繕できていないままだ」と話をしており、自分は大丈夫かと不安に思っています。
そこで、Bさんは税理士に相談して「家族信託」を利用した次のような案を作ってもらいました。
このような信託契約をしておくことで、Bさんは亡くなるまで長男に2棟の賃貸不動産と預金を管理してもらいながら、生活費等の支払いを受け続けることができます。
初めは不動産経営に興味のなかった長男ですが、家賃収入を管理している通帳を見て収支を計算することで、徐々に不動産経営に興味が出てきました。Bさんとしても、経営のノウハウを教えながらゆっくりと事業承継ができるため、安心して長男に不動産経営を任せることができます。
また、信託された賃貸不動産2棟は受託者である長男の名義に変更されますので、大規模修繕も長男の名義で行うことになります。そのため、たとえBさんが認知症になったとしても、長男が銀行からお金を借りて大規模修繕を行うことができるのです。
このように家族信託を利用することで、不動産経営をゆっくりと継がせながら、老後の生活資金を確保することができます。
まとめ
家族信託は認知症対策として非常に有効な手段です。
目的によっては信託内容が大きく変わりますので、家族信託をする際は信託に詳しい専門家にご相談することをお勧めします。
ソレイユ相続相談室では、豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたに合った家族信託のご提案を行っております。家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。