遺言に従わない相続
亡くなった人が有効な遺言を残していた場合、残された家族はその遺言の内容通りに遺産分割をしなければなりません。これは、遺言が亡くなった人の大切な意思表示であり、尊重されるべきとされているからです。
しかし、遺言の内容に納得できない相続人が多い場合や、遺言に書かれている内容と実際の財産構成が大きく異なってしまっている場合など、遺言の内容に従うべきではないと判断するケースがあるかもしれません。このようなケースでは、遺言と異なる遺産分割をすることができます。
ただし、遺言があるにもかかわらず、その内容を無視して異なる遺産分割をするためには、いくつかの条件をクリアしている必要があります。この記事では、遺言に従わない相続をする際の条件や注意点についてご説明いたします。
遺言とは異なる遺産分割をする条件
遺言とは異なる条件で遺産分割を行うためには、以下の条件を満たしている必要があります。
【条件】
①相続人全員の合意があること
②亡くなった人が遺産分割協議を禁止していないこと
③遺贈を受けた人(受遺者)が同意をしていること
④遺言執行者がいる場合、遺言執行者が同意していること
これらの条件について、1つずつご説明していきます。
①相続人全員の合意があること
大前提として、遺言と異なる遺産分割をする際は、相続人全員の合意を得なければなりません。相続人のうち1人でも合意しない人がいると、遺言の内容通りに遺産分割を進めることになります。
②亡くなった人が遺産分割協議を禁止していないこと
遺言では、5年を超えない範囲で遺産分割協議を禁止することができます。この旨の記載がされている場合は遺言と異なる内容の遺産分割協議ができませんので、ご注意ください。
③遺贈を受けた人(受遺者)が同意していること
遺言では、相続人以外の人にも財産を渡すことができます。例えば、友人や愛人などです。このように、遺言によって相続人以外の人が財産を受け取ることを「遺贈」といい、遺贈により財産を受け取る人のことを「受遺者」といいます。
遺言に従わないとなると、後の遺産分割協議で受遺者への遺産配分が減り、受遺者の利益が奪われてしまう可能性があります。ですから、遺言と異なる遺産分割をする際は、受遺者の同意を得なければなりません。
また、受遺者が遺贈を「いらない」と放棄すれば、同意を得ていなくても遺言に従わない遺産分割をすることができます。
④遺言執行者がいる場合、遺言執行者が同意していること
遺言執行者とは、亡くなった人の遺言を実現するために、遺産の管理や相続手続きなどを行ってくれる人のことです。遺言執行者がいる場合、相続人は勝手に遺産を処分したり、遺言の執行を妨げる行為をしてはいけませんが、遺言とは異なる内容の遺産分割をするとなると、遺言の執行を妨げてしまう可能性があります。
そのため、遺言に従わない遺産分割をする際は、遺言執行者の同意も得る必要があるのです。
遺言とは異なる遺産分割をする際の注意点
いくつかの条件を満たせば、遺言と異なる遺産分割をすることも可能であることが分かりました。しかし、遺言の内容を無視した遺産分割をすることによって発生するトラブルなどもありますので、注意が必要です。
例えば、遺言の内容通りに遺産分割を行う場合は、遺産分割協議をする必要がないため「誰が、何を、どのくらい相続するか」を話し合う必要がありません。
しかし、遺言と異なる遺産分割をするとなると、「誰が、何を、どのくらい相続するか」を相続人全員で話し合わなければなりません。
遺産分割協議が成立するためには、相続人全員がその遺産分割に納得し合意している必要がありますので、納得していない相続人が1人でもいると、なかなか話し合いがまとまらず、相続手続きに遅れが出てしまうのです。
遺産分割協議は相続の中でも、特に争いが起こりやすいところですので、できれば避けたいものです。条件の厳しさと争いのリスクを考慮すると、多少の不利益があっても遺言に従って遺産分割をした方が良い可能性がありますね。
「遺言の内容や遺産分割に不満がある」「遺産分割と相続税の関係が気になる」という方は、相続に強い税理士へ一度ご相談ください。