賢い遺産相続の知恵
相続と遺贈はどう違う?

相続と遺贈は、どちらも大切な財産を次の世代に渡す方法ですが、法的な仕組みや対象者が大きく異なります。相続は法定相続人のみが対象となる一方、遺贈は遺言書を通じて誰にでも財産を渡すことができます。この記事では、2つの制度の違いや活用方法、注意点について詳しく解説します。

相続と遺贈の基本的な違いとは?

財産を渡す2つの方法

財産を次の世代に引き継ぐ方法として、「相続」と「遺贈」という2つの制度があります。一見似ているように思えますが、法律上は全く異なる仕組みです。

相続は民法で定められた法定相続人のみが財産を引き継ぐ制度で、遺贈は遺言書を通じて法定相続人以外にも財産を渡すことができる制度です。

どちらを選ぶべきか

財産を渡したい相手によって、適切な方法が変わります。

配偶者や子どもなど法定相続人に渡す場合:相続
内縁のパートナーや恩人、団体など法定相続人以外に渡す場合:遺贈

相続とはどのような制度ですか?

相続の基本的な仕組み

相続とは、亡くなった方(被相続人)が持っていた財産や権利、借金などの債務を法定相続人が引き継ぐ制度です。相続では以下の特徴があります。

 

自動的に発生:特別な手続きなしに相続は開始されます
包括承継:プラスの財産だけでなく、借金も一緒に引き継がれます
法定相続人のみ:民法で決められた人だけが相続できます

 

法定相続分について

相続では、誰がどのくらいの割合で財産を受け取るかも法律で定められています。これを「法定相続分」といいます。

配偶者と子どもがいる場合
• 配偶者:2分の1
• 子ども:2分の1を均等に分割

 

配偶者と両親がいる場合
• 配偶者:3分の2
• 両親:3分の1を均等に分割

 

配偶者と兄弟姉妹がいる場合
• 配偶者:4分の3
• 兄弟姉妹:4分の1を均等に分割

 

法定相続人になれる人はどんな人?

相続人の順位と範囲

法定相続人には順位が定められており、上位の相続人がいる場合は下位の相続人は相続権がありません。

常に相続人
• 配偶者(法律上の婚姻関係にある人)

 

第1順位
• 子ども、孫などの直系卑属

 

第2順位
• 両親、祖父母などの直系尊属

 

第3順位
• 兄弟姉妹、甥姪

 

法定相続人になれない人

以下の方々は、家族として親しい関係であっても法定相続人にはなれません。

 

内縁のパートナー(法律上の婚姻関係がない)
養子縁組をしていない連れ子
事実上の親子関係があっても法的な親子関係がない人
このような方々に財産を渡したい場合は、遺贈を検討する必要があります。

遺贈とはどのような仕組みですか?

遺贈の基本概念

遺贈とは、遺言書を通じて自分の財産を特定の人や団体に渡すことです。相続とは異なり、以下の特徴があります。

 

遺言書が必要:口約束では効力がありません
対象者に制限なし:法定相続人でも第三者でも法人でも可能
事前の同意不要:受け取る人(受遺者)の事前同意は必要ありません

遺贈が活用される場面

遺贈は以下のような場面でよく利用されます。

 

内縁のパートナーへの財産承継
お世話になった方への感謝の気持ち
慈善団体への寄付
ペットの世話をお願いしたい方への謝礼
特定の相続人に多く財産を残したい場合

特定遺贈と包括遺贈の違いは?

遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があり、それぞれ特徴が大きく異なります。

 

特定遺贈とは

具体例
• 「自宅の土地建物を○○さんに遺贈する」
• 「○○銀行の預金1,000万円を△△団体に遺贈する」
• 「株式会社□□の株式を××さんに遺贈する」

 

特定遺贈の4つの特徴

1. 受遺者は財産を受け取らなくても良い

突然の遺贈で困った場合、受遺者は家庭裁判所への手続きなしに、他の相続人に「遺贈を受け取らない」と伝えるだけで放棄できます。期限もありません。

 

2. 指定された財産のみ受け取れる

借金などの債務を負担する必要がなく、指定された財産だけを受け取ることができます。

 

3. 遺産分割協議に参加不要

法定相続人以外の受遺者は、遺産分割の話し合いに参加する必要がありません。

 

4. 不動産取得税が課税される場合がある

法定相続人以外の第三者が不動産を受け取る場合、不動産取得税が課税されます。

 

包括遺贈とは

包括遺贈は、財産全体の割合を指定して遺贈する方法です。

 

具体例
• 「財産の4分の1を○○さんに遺贈する」
• 「全財産の半分を△△団体に遺贈する」

 

包括遺贈の4つの特徴

1. マイナスの財産も受け取る可能性

借金などの債務も指定された割合に応じて引き継がれます。

 

2. 放棄には家庭裁判所への申立てが必要

相続放棄と同様に、3か月以内に家庭裁判所への申立てが必要です。

 

3. 遺産分割協議への参加が必要

どの財産を受け取るかを決めるため、他の相続人との協議に参加する必要があります。

 

4. 不動産取得税は課税されない

包括遺贈で不動産を取得する場合、不動産取得税はかかりません。

 

遺贈を活用する際の注意点とは?

遺言書の言葉選びが重要

遺言書では「相続」と「遺贈」の言葉を正確に使い分ける必要があります。

 

法定相続人には「相続させる」
法定相続人以外には「遺贈する」

 

言葉を間違えると、手続きが複雑になったり、思わぬトラブルの原因となる可能性があります。

 

遺言書の種類を検討

遺言書には主に以下の種類があります。

 

自筆証書遺言
• 自分で手書きする遺言書
• 費用は安いが、要件を満たさないと無効になるリスク

 

公正証書遺言
• 公証役場で公証人が作成する遺言書
• 費用はかかるが、確実性が高い

 

専門家との相談が重要

遺言書の作成は法的な要件が複雑で、少しの間違いが大きなトラブルに繋がります。司法書士や弁護士などの専門家と相談しながら作成することをお勧めします。

 

相続税の仕組みはどうなっていますか?

遺贈でも相続税がかかる

遺贈は「贈与」の性質を持ちますが、税法上は「相続税」が課税されます。贈与税ではありませんので注意が必要です。

相続税の4つの重要ポイント

1. 全体で計算してから按分

相続税は個人ごとに計算するのではなく、全体の相続財産に対する税額を計算してから、各人が受け取った割合に応じて按分します。

 

2. 第三者は税額が20%加算

法定相続人以外の第三者や、兄弟姉妹が財産を受け取った場合、相続税が20%加算されます。

 

3. 基礎控除は法定相続人分のみ

相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)は、受遺者の人数は含まれません。

 

4. 公益団体への遺贈は非課税

国や地方自治体、公益事業を行う団体への遺贈は相続税が非課税となります。

 

不動産遺贈の税負担

不動産の遺贈では、相続税以外にも以下の税負担があります。

登録免許税:0.4%から2.0%に増加
不動産取得税:特定遺贈で法定相続人以外が受け取る場合に課税

遺贈以外の選択肢はありますか?

死因贈与という方法

死因贈与は、贈与者と受贈者が契約を結んで行う贈与です。遺贈との違いは以下の通りです。

契約方式:双方の合意が必要
事前の把握:受け取る人が内容を事前に知ることができる
効力発生:贈与者が亡くなった時点で効力発生

家族信託という選択肢

家族信託は、生前から財産の管理を家族に託す制度です。

特徴
生前からの管理:認知症対策としても有効
柔軟な運用:成年後見制度より自由度が高い
遺言書との併用:両方を組み合わせることも可能

 

活用例
• 認知症になった際の財産管理
• 事業承継の準備

どの方法を選ぶべきか

財産の状況や家族構成、実現したい内容によって最適な方法は異なります。

シンプルな財産承継:相続・遺贈
生前からの財産管理が必要:家族信託
受け取る人の事前同意が重要:死因贈与

よくあるご質問

Q1. 内縁のパートナーに財産を残すにはどうすればよいですか?
A1. 内縁関係では法定相続人になれないため、遺言書による遺贈が必要です。ただし、法定相続人以外への遺贈は相続税が20%加算されるため、税負担も考慮して検討することが重要です。

 

Q2. 遺贈を受けた人が財産を受け取らない場合はどうなりますか?
A2. 特定遺贈の場合は他の相続人に「受け取らない」と伝えるだけで放棄できます。包括遺贈の場合は、3か月以内に家庭裁判所への申立てが必要です。放棄された財産は他の相続人が相続することになります。

 

Q3. 遺言書で「相続させる」と「遺贈する」を間違えて書いたらどうなりますか?
A3. 法的には有効ですが、手続きが複雑になる可能性があります。法定相続人には「相続させる」、法定相続人以外には「遺贈する」を使うのが適切です。心配な場合は専門家に相談して正確な遺言書を作成しましょう。

 

Q4. ペットに財産を残すことはできますか?
A4. ペット自体に財産を残すことはできませんが、ペットの世話をしてくれる人に「ペットの世話を条件として財産を遺贈する」という負担付遺贈は可能です。

 

Q5. 遺贈と生前贈与はどちらが有利ですか?
A5. 税制面では以下の違いがあります。

生前贈与:贈与税(高い税率)、小規模宅地特例なし
遺贈:相続税(比較的低い税率)、小規模宅地特例適用可能

ただし、財産の種類や金額によって有利な方法が変わるため、専門家に相談することをお勧めします。

監修者

宮澤 博

税理士・行政書士
税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、 お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、 他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。

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