1.代償分割とは
代償分割とは、相続財産に不動産などの分割が困難な財産がある場合に、その財産を1人の相続人が取得し、その代わりに自分の固有財産から金銭などの代償財産を他の相続人に支払って、取得分を調整する方法です(民法第907条第2項)。
例えば、相続人が2人で、遺産の主な構成が評価額1億2,000万円の不動産のみの場合、1人がその不動産を相続し、もう1人に6,000万円を金銭で支払うケースなどが考えられます。
代償分割は「遺産分割の方法」の一つにすぎないため、これを選択しても相続税の総額が自動的に変わることはありません。ただし、特定の税務上の特例(例:小規模宅地の特例)との相性がよく、結果として節税に結びつくことがあります。
✅ 注意点:代償金の支払い内容や方法は、必ず遺産分割協議書に明記しましょう。そうしないと、後から税務署に「贈与」とみなされるおそれがあります。
2.小規模宅地の特例とは
相続によって取得した宅地が居住用や事業用として使われていた場合、一定の要件を満たすことで、その宅地の評価額を330㎡まで最大80%減額できる制度です(相続税法第69条の4)。
この特例のポイントは、「宅地」であること、そして「被相続人の生前の利用状況」および「相続人の状況・要件」がそろっていることが前提となります。
特例が使える代表的な要件には次のようなものがあります。
- 被相続人と相続人が同居していた(居住用)
- 相続人が事業を承継した(事業用)
- 相続人が3年以内に自己所有の家に住んでいない など
✅ 注意点:特例適用の可否は、被相続人の生前の生活状況や相続人の住民票・家屋の登記内容により判断されるため、十分な確認が必要です。
3.【具体例】代償分割と小規模宅地の特例の活用
前提条件(共通)
- 被相続人:父
- 相続人:長男と長女の2人
- 遺産:評価額1億2,000万円の居住用不動産(父と長男が同居)、預貯金はなし
- 相続人が取得する財産評価額:長男・長女ともに6,000万円ずつ
- 長男は父と同居しており、相続後もその家に住み続ける予定
- 長女は別居しており不動産は不要
この前提のもとで、分割方法によってどのように相続税が変わるかを見てみましょう。
Case 1:共有分割(不動産を長男・長女で2分の1ずつ共有相続)
- 不動産を法定相続分で共有したケース
- 長男は要件を満たすため、自身の2分の1持分について小規模宅地の特例を適用可能
- 一方、長女は別居しているため、自身の2分の1持分については特例適用不可
- 評価額1億2,000万円のうち、長男の6,000万円分が80%減額され、評価額は1,200万円に
- 長女の持分(6,000万円)はそのまま評価されるため、土地の評価額は7,200万円
Case 2:代償分割(長男が不動産を単独相続し、長女に代償金6,000万円を支払う)
- 男が不動産をすべて取得し、代わりに6,000万円の代償金を長女に支払う
- 長男は引き続き居住するため、不動産全体に小規模宅地の特例を適用可能
- 評価額1億2,000万円 × 20%(80%減額)= 2,400万円
- 相続人全体の取得財産額は変わらず(長男:不動産2,400万円+納税負担、長女:代償金6,000万円)
- 土地の評価額が2,400万円に抑えられ相続税の節税が可能になります。
✅ ポイント:代償金は現金での一括払いでなくても、分割払いや他の財産による支払いでも可能です。ただし、相続税の納税は相続開始から10か月以内。納税と代償金の支払いは別管理が必要です。
4.まとめ
相続財産に不動産が含まれていて、その不動産に誰かが住み続けたいという希望がある場合、遺産を相続人で平等に分けることは難しいケースが多く見られます。
今回の【Case 2】のように、代償分割と小規模宅地の特例を組み合わせることで、相続税額を大幅に減らせる場合があります。
不動産は「売却すれば現金化できる」と思われがちですが、相続登記をしなければ売却すらできません。まず相続税を節税した上で名義変更・売却することで、実際に手元に残る金額を増やすことができます。
ただし、小規模宅地の特例は要件が複雑で、ちょっとした形式的ミスで使えなくなることもあります。いくつかのパターンでシミュレーションを行いながら、実際に適用できるかどうかを検討することが大切です。
ぜひ、相続専門の税理士にご相談ください。