相続税の申告漏れが発覚した場合、速やかに正しい内容で修正申告を行うことが重要です。放置して税務調査が入った場合、通常の税額に加えて最大45%の加算税が課されることもあります。本記事では、相続税の申告漏れに対する対応方法、追徴課税の仕組み、税務調査の実態、そしてよくある申告漏れの例まで詳しく解説します。
追徴課税の仕組み|加算税と延滞税とは
相続税の申告漏れが発覚した場合、以下の3種類の金額を納める必要があります。
追徴課税の内訳
- 本来の相続税額(未納分)
- 加算税(無申告・過少申告・重加算)
- 延滞税(日数に応じた利息)
無申告加算税(申告自体をしていなかった場合)
自主申告のタイミング | 加算税率(原則) |
調査通知前(期限から1年以内) | 5% |
調査通知前(期限から1年超過) | 10%(一部15%) |
調査通知後・指摘前 | 15%(一部20%) |
調査通知後・指摘後 | 20%(一部25%) |
無申告加算税は、相続税を申告期限内に申告しなかった場合に課される加算税です。この加算税は過少申告よりも重い税率が設定されています。過少申告加算税と同様に「一部」とされる部分にはより高い税率が適用されますが、無申告加算税の場合は「50万円を超える部分」に対して高い税率が適用されます。
例 )納付すべき相続税が300万円で、調査通知後・指摘前に自主的に申告した場合
- 50万円までの部分:50万円×15%=7.5万円
- 50万円を超える250万円:250万円×20%=50万円
- 合計加算税:7.5万円+50万円=57.5万円
過少申告加算税(申告額が少なかった場合)
修正申告のタイミング | 加算税率(原則) |
調査の事前通知前の自主申告 | 0%(加算なし) |
調査の事前通知後・調査前 | 5%(一部10%) |
調査の事前通知後・調査後 | 10%(一部15%) |
「一部」とは、追加で納める税金が、期限内納付額(もともと期限内に正しく納めた税額)または「50万円」のどちらか大きい方を超える場合、超えた部分には上記の高い加算税率(カッコ内の率)が適用されます。
※「期限内納付額」とは、相続税の法定申告期限内(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)に、正しく申告・納付した税額のことを指します。
例)期限内納付額が300万円、後から500万円の追加が必要になり、調査の事前通知後・調査前に申告した場合
- 300万円(300万円(期限内納付額)>50万円)までの部分は5%
(300万円×5%=15万円) - 超えた200万円は10%
(200万円×10%=20万円) - 合計加算税:15万円+20万円=35万円
重加算税(悪意があった場合)
- 過少申告のとき:40%
- 無申告のとき:45%
※不正の意図(財産隠し等)があると判断された場合に適用されます。
延滞税の仕組み(令和7年5月時点)
- 納期限翌日から2ヶ月以内:年2.5%(令和7年での延滞税特例基準割合1.5%+1%)
- 2ヶ月経過後:年8.8%(令和7年での延滞税特例基準割合1.5%+7.3%)
税務調査で申告漏れが発覚する理由
税務署には調査権限がある
国税通則法第74条の2~第74条の6に基づき、「質問検査権」により次のような調査が可能です。
- 銀行口座や不動産の照会
- 相続関係者への聞き取り
- 財産の現地確認
税務調査の実施状況(令和6年度)
- 申告件数:約129,000件
- 実地調査件数:約12,500件(約9.7%)
- 申告漏れ等が見つかった割合:約82%
相続税に時効はあるのか
- 通常の時効:申告期限から5年(死亡日から5年10ヶ月)
- 不正があった場合:7年
実務上、税務調査は申告期限の翌年または翌々年に行われることが多く、時効の完成を狙うのは現実的ではありません。
自主申告のメリットとは
税務調査前に申告すれば加算税が軽減
内容 | 調査前の対応 |
過少申告加算税 | 加算なし(0%) |
無申告加算税(期限から1年以内) | 一律5% |
無申告加算税(期限から1年超過) | 10%(原則15%→軽減) |
正当な理由があれば加算税免除も可能
- 有効例:事故や重病で申告が不可能だった場合
- 無効例:「申告が必要だと知らなかった」
よくある相続税の申告漏れパターン
名義預金の見落とし
亡くなった人が相続人名義で貯めていた預金は、実質的に相続財産と見なされます。
タンス預金・現金の受け取り
自宅で保管されていた現金も申告対象。発見後は分割・申告が必要です。
不動産の未登記・未申告
相続登記の未実施や、不動産の申告漏れは特に注意。 ※2024年4月より相続登記は義務化されています(不動産登記法改正)。未登記のままにすると10万円以下の過料が課される可能性があります。
海外資産の申告漏れ
国外財産も日本の相続税の課税対象。国際的な自動的情報交換制度(CRS)により当局が把握可能となっており、近年は海外資産の把握が強化されています。
まとめ
申告漏れはすぐに対応を
相続税の申告漏れに気付いた時点で、税理士に相談し、速やかに修正申告を行うことが肝要です。
- 調査前の対応で追徴課税を大幅に軽減できます
- 放置すると最大45%の重加算税が課される可能性もあります
- 税務署には広範な調査権限があるため、隠し通すのは困難です
- デジタル化の進展により、税務署の情報収集能力は年々向上しています
申告漏れの可能性がある場合、迷わず専門家へ相談してください。