「遺言書に記載できる15のこと」② 身分に関する4つの遺言事項とは?
さて、前回は遺言書に記載できる15のことのうち、「相続に関する7つのこと」をご紹介しました。ご一読いただいた方は、意外と多くのことが遺言書に記すことができると感じたのではないでしょうか。 ただやみくもに遺言書へご自身の思いをぶつけるのではなく、遺言書に書き記せることを知っておくことで気持ちも財産も前向きに整えていくことができます。
遺言書を遺言事項に沿って記すことは、次世代の方のために大切なご自身の思いをしっかりと託すことにつながります。では、トラブルなく相続を家族みんなで乗り越えていくために、第2回目の今回は「身分に関する4つのこと」について迫っていきましょう。
身分について ドラマチックな事例も踏まえて解説
前回は相続に関することをメインに据えて解説しましたが、今回は「身分」に関することです。
しかし、ひと言で身分と言われてもどんな事柄を指すのか想像しにくいのではないでしょうか。遺言事項における身分とは、「親族の中で置かれた立場」をイメージするとわかりやすいでしょう。
民法の中で親族や相続など家族に関する家族法の中では夫婦関係の身分、親子の身分関係など、頻繁に身分という言葉が頻出します。では、早速遺言事項の中で身分に関することとはどんなことか解説しましょう。
第1回目の記事はコチラ→「遺言書に記載できる15のこと」① 相続に関する7つの遺言事項とは ?
1.秘密を打ち明ける?子の認知とは
遺言書をしたためる方の中には、これまで家族に婚外子の存在を打ち明けてこなかった方もいます。長年子どもの存在を隠してきたとしても、自身がもしも亡くなったら相続をさせてあげたい、と感じる場合もあるでしょう。そんな時には、「子の認知」を遺言書の中で行うことが可能です。
この行為は「遺言認知」とも呼ばれています。秘密を死去後に明かすことになる、というわけです。しかし、この行為はトラブルが予想されるのも事実です。ではどんなトラブルでしょうか。
・認知された子は法定相続人になる
婚姻届を提出し、法律上の婚姻関係にある夫婦の下で生まれた子は戸籍上にも父と母が確定しており、嫡出子と呼ばれます。一方で婚姻関係にない男女の間で子どもが生まれた場合、出産という行為を通して母親は確定ができますが、父親は確定できません。いわゆる婚外子、非嫡出子となります。非嫡出子は父親が認知しない限り相続権がありません。しかし、父親が遺言を通して子どもを認知した場合には、相続権が発生します。つまり、家族がもしも非嫡出子の存在を知らなかった場合には、遺言状の中で初めて父親に「隠し子」と呼ばれるような子がいたと知ることになります。いかがでしょうか、この段階で大きなトラブルが予想されますよね。
また、「認知はしていないから、相続権はない」と残された家族は思っていても死去後に遺言認知が分かった場合には、突然の相続権の発生にどう感じるでしょうか。この点もトラブルが予想されますね。つまり、遺言書の中で子の認知を行うことは、残された家族たちに火種を残してしまう可能性があります。そのため、遺言書を残す際には慎重に判断をする必要があるでしょう。
2.大切な人を守りたい!未成年後見人、未成年後見監督人の指定とは
相続が発生する際には、相続人の中に未成年者がいることがあります。たとえどんなに小さなお子様であっても、相続権は発生します。もしも未成年の相続人に親権者がいない場合には、相続によって多額の財産を受け取った場合にどう管理し、どう相続税を納付するのかもわからない可能性があります。また、小さなお子様が多額の財産を受け取ったら、略取(無理やり連れ去ること)されるリスクもあるでしょう。大切な方を守るために、遺言書の中では親権者がいない方のために「未成年者後見人」もしくは「後見監督人」を指定することができます。指定しておくことで相続の発生後に速やかに指定された方が相続手続きに入れますので、財産管理もスムーズに行えます。例として、シングルマザーやシングルファザーの方が、遺言書の中で安心できる親族の方を指定することがあります。
では、「未成年者後見人」と「未成年後見監督人」とはどんな立場なのでしょうか。
未成年後見人とは
未成年後見人とは、わかりやすく言えば「親がいない子どもの代理人」です。本来未成年の子の財産管理や監護などは親権者である父や母が担います。しかし、二人ともが死去してしまっている場合やシングルとして子育てをしていた場合では、未成年者が相続人となった時に相続手続き全般を行う人が必要です。そこで、未成年後見人が選任されます。未成年後見人は家庭裁判所で選任されるか、遺言書で指定されます。先に触れたように遺言書の中で指定されると、家庭裁判所での選任手続きが不要となるため、スピーディーに財産管理が行えるようになります。家庭裁判所で選任を行う際には必要書類などを整える必要があるため時間がかかるのです。なお、未成年後見人は複数を指名することも可能で、法人でもOKです。未成年後見人は未成年を監護するにあたって非常に重要な立場です。相続財産をきちんと厳格に管理できる人を選ぶ必要があります。なお、成年後見時と同様で未成年者本人の戸籍にも名前が載ります。
参考記事はコチラ→裁判所 未成年後見人選任
未成年後見監督人とは
未成年後見監督人とは、上記で解説した未成年後見人を「監督する」立場にある人です。監督は必ずしも指名する必要はないのですが、高額の財産を未成年後見人が管理する場合には、さらにその監督者を選んでおくことも大切でしょう。万全の体制で未成年者を守る、その思いを遺言書の中で込めることができます。なお、家庭裁判所で選任する場合には下記URLのような手続きになります。
参考はコチラ→裁判所 未成年後見人選任の申立てをされる方へ
「候補者が未成年後見人に選ばれるとは限りません。第三者専門職が選任されたり,監督人が選任されたりすることがあります。」
3.遺言を確実に実行してほしい!遺言執行者の指定・委託とは
遺言書を書く際には遺言事項として「遺言執行者の指定・委託」を指定することができます。この方法はわかりやすく言うと、「この人に遺言を確実に実行してほしい!」と思える人を選ぶ行為です。遺言者の思いを確実に受け止めてくれ、執行することでスムーズな相続が可能です。
例として、今回の記事で触れたように子の認知を踏まえて相続を開始する場合、遺言執行者も別に定めておくことで相続人間のトラブルを減らすことも想定されます。また、前回ご紹介した相続人の廃除を行う際にもトラブルが起きやすいので遺言執行者を定めておくことがおすすめです。
遺言執行者は必ずしも親族内で行う必要はありません。相続手続きの士業の視点で進めることも可能で、税理士への相談も可能です。
遺言に関するご相談は、事例豊富な「ソレイユ相続相談室」をご利用ください。
4.ご先祖様や伝統文化も大切に…祭祀承継者の指定とは
遺言書の中にはお仏壇やお墓など、先祖代々受け継いできたものに関しても承継者を指定することができます。お仏壇の財産は「祭祀財産」と呼ばれ、祭祀継承者が指定されるとその方に祭祀財産が集約されます。遺言で祭祀に関することを指定するケースは以下のとおりです。
・地域の慣習により、お墓などの管理をする人を決める必要がある
・先祖代々受け継いできた仏具類は大切に引き継がれて欲しい
・地域の祭祀を取り仕切る立場にあり、伝統文化を継承してほしい など
祭祀財産にご縁があるご家庭の場合は、相続時に相続人間で話し合うよりも遺言者がしっかりと次世代へ文化を繋ぐことがおすすめです。
まとめ
今回の記事では遺言事項として書き記すことができる内容について、身分に関する4つのことをご紹介しました。次回は第3回目、最後に「財産に関すること」についてご紹介しますので、是非ご参考ください。