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名義預金は相続トラブルの温床? 国税不服審判所裁決に触れながら詳しく解説

2023/09/29
名義預金は相続トラブルの温床? 国税不服審判所裁決に触れながら詳しく解説
名義預金は子や孫のために貯蓄している方が多いですが、相続が発生すると「相続財産」とみなすため相続税の課税対象に……。「子どもの名前、孫の名前で預金したはずなのにどうして?」と思う方も多いでしょう。そこで、今回の記事ではトラブルになりやすい名義預金に焦点を当て解説します。

ご自身の財産を大切な子や孫へと残すために、「名義預金」として貯蓄していませんか。名義預金とはご自身ではない、孫や子の名義で口座を開設し、預金してあることを意味します。口座の開設は以前より厳しくなっていますが、以前はご家族が気軽に別の家族の口座を開設できる時代がありました。今も親権者であれば開設できる銀行も多く、ジュニアNISAの口座を祖父母が運用管理者になることも可能です。そこで、問題点があります。

名義預金は子や孫のために貯蓄している方が多いですが、相続が発生すると「相続財産」とみなすため相続税の課税対象になってしまうのです。「子どもの名前、孫の名前で預金したはずなのにどうして?」と思う方も多いでしょう。そこで、今回の記事ではトラブルになりやすい名義預金に焦点を当てます。併せて、「国税不服審判所裁決」にも触れていきますので、ぜひご一読ください。

 

名義預金はどうして相続時にトラブルの温床になるの?

名義預金とは、通帳名義と実際の貯蓄をした方が相違している預金を指します。わかりやすい例で言うと、子の誕生をきっかけに教育資金などを貯蓄するために、子ども名義の預金通帳を作る方は多いでしょう。夫の給与所得を妻名義の預金通帳で管理を行っている場合も名義預金です。管理のしやすさもあって名義預金を持っている方は多いですが、どうして相続時にはトラブルとなってしまうのでしょうか。

■名義者が知らないと名義預金とみなされる

子や孫名義の通帳を開設し、預貯金を一生懸命貯めていた親や祖父母が亡くなった場合、名義者である子や孫は相続開始時まで通帳の存在も預貯金額も知らなかった、という場合があります。もらったという認識が無い場合「生前贈与にはみなさない」ため、名義預金として相続財産の対象となり、場合によっては相続税を納付する必要があります。贈与契約書が無い場合も名義預金とみなされる可能性が高いでしょう。

■名義人が自由に使えない場合は名義預金とみなされる

子や孫名義の通帳を開設後、そのまま親や祖父母が大切にタンスにしまっている場合はどうなるでしょうか。通帳を管理するカードも、印鑑も子や孫に知らせずに親や祖父母が管理していたら、事実上この通帳は名義人のものではないとみなします。名義人が自由に引き出し、使える状態ではない場合、名義預金とみなされるのです。

(※定期性預金の場合は簡単に引き出せないためみなさないケースもある)

実際に孫名義の口座で貯めていたお金は、名義預金として相続税調査を受けるケースが多いのです。

詳しい記事は→コチラ

■名義預金は調査を受けやすい?相続税調査とは

相続税対策のつもりで子や孫名義の預貯金口座を開設し、一生懸命蓄えを作ったにもかかわらず、相続税対象となると知ったら驚かれることも多いでしょう。「わからないようにこっそり貯めておけば...」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、名義預金は税務調査を受けやすいのです。ではどうして税務署は、名義預金を判断して税務調査を実施するのでしょうか。

■税務署は不自然さをチェックしている

本来預貯金口座は、名義者と預貯金の資金提供者が一致しているはずです。税務署が「名義預金では?」と疑う場合、収入の無い専業主婦の方に高額の預貯金があったり、未成年である孫に高額の預貯金があったりと、不自然さが目立つ場合に調査を行います。以下のような場合に、税務調査が行われることが多いのです。

・収入の無い名義人に高額の預貯金がある
・収入と預貯金額に相当の開きがある
・名義人の居住地にはない銀行口座に開設されている
・名義人の印鑑ではない印鑑で口座が開設されている

しかし、相続人からすると、納得のいかない税務調査を受けるケースもあります。

国税不服審判所裁決とは|配偶者や子名義の預貯金口座を相続財産とはみなさなかったケース

今回解説する、令和4年2月の国税不服審判所裁決は、配偶者や子名義の預貯金口座が税務署によって相続財産にみなすべき、と疑われたものの、「国税不服審判所」で争った結果、相続財産にはみなさないと決まったケースです。

国税不服審判所とはどんなところ?

相続の調停や使い込みによる損害賠償請求は裁判所で争われます。では、今回取り上げる国税不服審判所とはどんなところでしょうか。国税不服審判所とは国税庁内に設置されている機関です。国税の処分などに関して納得ができない場合は、審査請求を国税不服審判所に対して行うことで、再度審査を受けることができます。最終的には「裁決」という形で答えを出しています。裁判所とは異なる国税庁内の独立審査機関です。

■国税不服審判所における審査の流れ

1.審査請求人から審査を求める
2.国税不服審判所が審査を収受し、形式審査を行う(ここで却下される場合がある)
3.形式審査後、担当審判官が調査や合議を行う
4.議決後、裁決が決定する
5.裁決に不服があれば訴訟へ移行する(ここからは裁判手続きになる)

令和4年2月15日の注目すべき裁決とは?

では、令和4年2月15日に出た裁決とは一体どのような内容だったのでしょうか。

事件の概要

この事件は、相続税の申告において、家族名義の預貯金は相続財産であるとして原処分庁(原処分を行った税務署長や国税局長などを指して言う言葉)が更正処分等を行ってきた事件でした。納得がいかない相続人(このケースでは配偶者と次男)は審査請求を求めたのです。(対象となった額は約9,400万円)

審査請求人である相続人は、原処分庁が更正処分を求めた預貯金などは被相続人の配偶者の財産であり相続財産に当たらないなどと主張しました。一方で原処分庁側は、相続税の申告書には計上されていなかった現金、被相続人の配偶者名義及び次男名義の預貯金は、被相続人に対して配偶者の収入比率などを使って判断すると、名義預金とみなし、相続財産にすべきと主張しました。

つまり、相続人の収入から考察すると高額の預貯金だったため、これは被相続人の名義預金であり相続財産だ、と争ったのです。

結論

この事件はすでに記述のとおり、相続財産とはみなさないという結論に至りました。大きな決定打となったのは、高額の現金・預貯金の出資者が被相続人であると特定できないこと、配偶者も収入を得ており、被相続人以外の財産も混在していると考えられること、等が挙げられました。配偶者が被相続人の生前から、被相続人名義の預貯金などを管理や運用をしていたことも、被相続人単独の相続財産とは言えない理由に挙げられました。

名義預金を相続税申告していたことも重要

この事件は相続税の申告時に名義預金を計上していた、という背景があります。つまり、意図的に隠そうなどという動機はないと推測され、この金額は名義預金である、と報告を行っています。計上した金額を大幅に超える財産が名義預金である、と判断する材料は乏しく、更正処分は取り消されました。相続人側の方は、ホッと胸をなでおろしたのではないでしょうか。

参考記事は→コチラ URL 国税不服審判所 令和4年2月15日裁決 

名義預金はそれでも注意が必要

このケースでは無事に国税不服審判所にて処分取り消しに至りましたが、そうではなく高額の追徴課税を受けるケースもたくさん存在しています。原処分庁に対抗する手段は残されますが、生前の段階から名義預金について対策を開始することも大切です。名義預金自体は違法ではないですが、相続時にトラブルの温床となっていることを踏まえると、以下の対策を始めておくようにしましょう。

贈与として準備を進めておこう

名義預金は口座の開設や資金の提供者が名義人に財産の存在を伝えないまま亡くなられてしまったため、問題が起きてしまいがちです。そこで、以下の対策を進めましょう。

1.贈与契約書を双方同意の上で交わすこと
2.贈与税を毎年、正しく申告すること
3.名義人が印鑑と預金の管理をすること

今ある名義預金をどうするべきか、悩んだら税理士ご相談されることもおすすめです。

まとめ

この記事では令和4年2月15日付、国税不服審判所裁決を参考にしながら、名義預金の問題点と対策について詳しく解説を行いました。名義預金は家族思いの証であり、決して違法なものではありません。しかし、相続開始後に色んな問題を生んでしまうことも事実です。

相続税対策や名義預金の在り方については、ご家族でじっくりと話し合ってみましょう。ご不明な点はお気軽に、ソレイユ相続相談室にご相談ください。

この記事の監修者
釘宮 貴美子
釘宮 貴美子
公認会計士・税理士・行政書士

サンソレイユ税理士法人 代表社員税理士 首都圏事務所所長
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士 小杉事務所所長

福岡県出身。「円満な相続」には、税法の知識だけでなく民法その他関連法規と豊富な経験に基づくノウハウが必要です。税務調査率は1%に満たない精度の高いプロ中のプロ。税務を絡めて遺言や契約書等に法的不備がないか厳しい目でチェックし、お客様を税務リスクから守る、真の税務法律家です。

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