新築住宅を建てる際、誰の名義にするかで相続税が大きく変わることをご存知ですか?建物の名義選択一つで、税負担に大きな差が生まれる可能性があります。しかし、贈与税も含めて総合的に検討すると、意外な結果になることもあります。 今回は、実際にご相談いただいた事例をもとに、最も税負担が安くなる新築住宅の建て方について、税理士が具体的な数字を使って分かりやすく解説いたします。
ご相談内容
私の家族の相談です。家族は父と母と長男の私と妹です。私の父と母と私が住んでいる自宅を壊して、家族三人で住む新居を新築しようと考えています。誰の名前で建物を建てたらよいのか相続税が心配なので教えてください。
ご家族の財産状況
- お父様の財産:預金8,000万円
- 自宅土地:土地評価額3,000万円
- 新築予定建物:建築価格6,000万円、固定資産税評価額見込4,000万円
ご質問
Q1:自宅土地の評価が80%減になる特例は、建物を父が建てても、私(長男)が建てても受けられるのでしょうか?
A:被相続人または同居親族名義であれば適用されます。
小規模宅地等の特例による80%減額は、建物の所有者が父親(被相続人)でも、父親と同居している子でも適用可能です。ただし、建物の所有者が第三者である場合は適用されません。なお、生計を別にしている親族が建物を所有している場合でも、被相続人がその建物に居住していれば特例は適用可能です。重要なのは以下の2つの条件です。
- 土地の所有者がその土地に住んでいること(今回はお父様)
- 配偶者か同居する家族が土地を相続すること(今回はお母様か相談者様)
この場合、土地評価額3,000万円が特例により600万円(20%)に減額され、2,400万円の評価減となります。建物がお父様名義でも長男様名義でも、この特例効果に変わりはありません。
Q2:父の相続税が最も安くなる新しい自宅の建て方を教えて下さい。
A:お父様名義で建築した方が有利です。
具体的な税負担シミュレーション
パターン1:お父様名義で建物を建築した場合
相続財産
- 預金:2,000万円(8,000万円-6,000万円)
- 土地:600万円(3,000万円から特例により80%減額)
- 建物:4,000万円
合計:6,600万円
相続税計算
- 基礎控除:4,800万円(3,000万円+600万円×3人)
- 課税額:1,800万円(6,600万円-4,800万円)
実際の税負担:180万円
パターン2:長男様名義で建物を建築した場合
建設価格(6000万)をお父様から長男様へ贈与する場合
- 住宅取得等資金贈与:1,000万円(非課税)
- 相続時精算課税制度:5,000万円(1000万円×5年に分割贈与)
贈与税:390万円(5年間で納付)
※相続時精算課税制度についてはこちらをご覧ください。
相続時の処理
- 預金:2,000万円(8,000万円-6,000万円)
- 土地:600万円(特例適用後)
- 建物:0円(長男名義)
- 相続時精算課税による加算:4,450万円(5000万-550万)
相続財産合計:7,050万円
相続税計算
- 基礎控除:4,800万円
- 課税額:2,250万円(7050万-4800万)
- 相続税総額:231万円
- 既払贈与税控除:390万円
差額159万円は還付されるが、実際の税負担:231万円
お父様名義→実際の税負担:180万円
長男様名義→実際の税負担:231万円
お父様名義で建築した方が51万円有利
重要な注意点
住宅取得等資金贈与について
親から子への住宅購入・建築資金の贈与について、一定額まで贈与税を非課税にする制度です。2025年現在、最大1,000万円まで贈与税がかからずに住宅資金を贈与できる特例制度です。利用には細かい要件があるため、専門家への相談をお勧めします。
同居の証明
小規模宅地等の特例を確実に適用するため、お父様と長男様が同居している事実を明確にしておきましょう。住民票や光熱費の契約などで同居の実態を示せるよう準備が大切です。
実行手順のポイント
- 専門家への相談
税理士に詳細なシミュレーションを依頼し、司法書士に登記手続きを相談しましょう。
- 家族間の合意
妹様への将来的な配慮も含めて、家族全体が納得できる計画を立てましょう。
- 特例適用の準備
小規模宅地等の特例の適用要件を満たすための書類準備を進めましょう。
まとめ:お父様名義で建築することを推奨します
このケースでは、お父様名義で建築する方が51万円税負担が少なくなります。相続時精算課税制度を使った贈与は、必ずしも節税にならないことがある例です。
小規模宅地等の特例は建物名義に関係なく適用されるため、わざわざ複雑な贈与手続きを行わず、お父様名義で建築することが最も効率的な選択となります。ただし、個々の事情により最適解は変わる可能性があるため、実行前には必ず税理士にご相談いただき、詳細な検討を行うことをお勧めします。