相続財産の中に「私道(しどう)」が含まれている場合、その評価方法は一律ではありません。私道の利用状況に応じて、相続税評価額は大きく異なるため、誤った評価をすると税額が過大になるリスクもあります。この記事では、私道の相続税評価を正確に行うために必要な知識を、国税庁の通達や実務に基づいて解説します。
私道の相続税評価は「利用状況」により3分類される
被相続人が所有していた私道の評価は、主に次の3つの利用形態に分けて考える必要があります。
1. 不特定多数が利用する私道:評価しない
不特定多数の者が常時利用する私道は、公共性が高く、処分可能性が極めて低いため、相続税評価上は「評価しない」とされています。
具体例
- 公道から公道へ通り抜け可能な私道
- バス停や公共施設が設置されている私道
- セットバック部分で登記が残っている私道
※この取扱いは、【財産評価基本通達第24項】に基づいております。
2. 特定の者が利用する私道:30%評価
特定の者(例えば隣接地の所有者など)しか利用しない私道は、一定の処分可能性があるため、通常の宅地評価の30%相当額で評価されます。
具体例
- 行き止まりの私道(位置指定道路・2項道路など)
なお、行き止まりであっても、その先に公園や商業施設、集会所などがあり、不特定多数の通行実態がある場合は「評価しない」扱いとなることがあります(個別判断が必要です)
3. 所有者のみが利用する私道:宅地と一体評価
所有者本人のみが利用する私道(私有地内の通路など)は、隣接する宅地と一体で評価されます。つまり、私道部分も含めた一画地として、隣接宅地と同様の評価を行います。
補足事項と特例
路線価が付された私道の評価方法
30%評価の対象となる私道に路線価が設定されている場合、以下の2つの計算式のうち、いずれか低い金額を採用します(財産評価基本通達24-2項)。
- 評価額 = 路線価(または特定路線価) × 地積 × 30%
- 評価額 = 私道に接する宅地の路線価 × 補正率 × 地積 × 30%
固定資産税の「非課税」と相続税評価は別の話
私道が固定資産税上「公衆用道路」として非課税扱いになっていても、それは固定資産税法における取り扱いであり、相続税評価には直接関係しません。相続税では実際の利用状況に基づいて、評価区分を判断する必要があります。
私道が貸宅地や貸家建付地に囲まれている場合
評価対象の私道が貸宅地や貸家建付地に囲まれている場合は、私道も同様に貸家建付地評価などを適用可能です。この場合、複数の利用者がいれば面積按分による評価が求められます。
私道の現地確認は必須!誤評価を防ぐために
地図や登記簿上の情報と、現地の実態が異なるケースは少なくありません。例えば通り抜け可能に見えても実際は閉鎖されている場合や、公共の利用があると思っていたら私有通路だったなどの事例が多くあります。相続発生前からの定期的な現地確認が重要です。私道の利用実態を把握することで、相続税評価の誤りや無用な税負担を防ぐことができます。
まとめ
私道の相続税評価は、その公共性や利用者の範囲によって「評価しない」「30%評価」「宅地と一体評価」の3つに分かれます。固定資産税の非課税状況とは別に、相続税法に基づいた実態判断が必要です。評価の誤りは税務調査の対象にもなりやすいため、専門家による確認や税理士への相談も検討しましょう。