遺言の活用事例
遺言はご自分の遺志を法律の力によって実現させることができます。どんな「遺し方」があるのか、下記の一般的な財産の承継事例を参考にご自身の遺言のプランを考えてみてください。なお、遺言の内容(具体的な文案)は死後に誤りなく執行されるように、ワンポイントアドバイスも参考に専門家に相談して作成しましょう。
遺言を遺される方の考え方の例
1、 夫婦のお互いの財産は、どちらか先に亡くなった方にすべて相続させたい
夫婦二人で自分の死後、財産をすべてお互いに相続させるために遺言をそれぞれのために遺す例です。
① 文案
夫の遺言
遺言書
遺言者 川崎太郎は、次のとおり遺言する。
第一条 遺言者の所有する全財産を妻である川崎花子(昭和●年●月●日生)に相続させる。
妻の遺言
遺言書
遺言者 川崎花子は、次のとおり遺言する。
第一条 遺言者の所有する全財産を夫である川崎太郎(昭和●年●月●日生)に相続させる。
② ワンポイントアドバイス
- お子さんのいないご夫婦で、それぞれに親や兄弟がいる場合には、それらの方が相続人となって遺産分割の話し合いが必要になってしまうので、遺言は作成しておいた方がよいです。
- 夫婦どちらが先に亡くなるかはわからないですから、どちらが先に亡くなっても自分の財産の受取人が居なくなってしまう可能性があります。そのような場合に備えて予備的遺言の条文を入れておきましょう。
- お子さんや親がいる場合には、それらの相続人に遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。
- それぞれの財産に、あるいは二人の財産が遺言によって合算されて、相続税がかかる場合には、相続人が相続税の支払いで心配することが無いように対策をしておく必要があります。
2、 子供が何人かいる場合に平等ではなく差をつけて相続させたい
老後の面倒を見てもらった、あるいは他の子供より支援をしてあげたい事情がある等で、子供の間に差をつけて相続させたい場合の例です。
① 文案
第〇条 ◯◯銀行の預金はすべて解約・換金した上,長男○○(生年月日)に5分の3,次男○○(生年月日)に5分の2を相続させる
② ワンポイントアドバイス
- お子さんには遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。て遺産分割の話し合いが必要になってしまうので、遺言は作成しておいた方がよいです。
- 子供が先に亡くなる可能性もありますから、そのような場合に備えて予備的遺言の条文を入れて、財産を受け取る人が居なくならないようにしておきましょう。
- 相続税がかかる場合には、相続人が相続税の支払いで困ることがないように対策をしておく必要があります。
3、 不動産が自宅だけなので、自宅はそこに住む子に相続させたい
相続財産のうち不動産は自宅だけで、現物を分割することも困難で、それを特定の人に相続させたい場合には、他の相続人にも配慮することが必要になります。そのような場合に代償金を活用する方法もあります。
① 文案
第一条 遺言者は、遺言者の有する以下の不動産を、長男○○(生年月日)に相続させる。
1 土地の表示
2 建物の表示
第二条 長男〇〇は、前条記載の相続に対する負担として、長女〇〇(生年月日)に1000万円を代償金として支払うものとする。
- 代償金を支払う側には預金の準備が必要になります。不動産をもらう人が自分で貯金する、預金を相続する、あるいは死亡生命保険金の受取人にしてもらう等事前の準備が必要になります。
- 代償金をやりとりしても不動産を譲渡したことにはならないので、譲渡所得税はかかりません。
- お子さんには遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。
- 子供が先に亡くなる可能性もありますから、そのような場合に備えて予備的遺言の条文を入れて、財産を受け取る人が居なくならないようにしておきましょう。
- 相続税がかかる場合には、相続人が相続税の支払いで困ることがないように対策をしておく必要があります。
4、 すべての財産を換金して分けてもらいたい
不動産その他何種類かの財産があるが、亡くなった後は一切を換金して、現金で遺産を分配して欲しいと考えている人の方法の例です。
① 文案
第一条 遺言者は、遺言者が相続開始時に有する全財産を、すべて換価し、換価により得られた金銭から遺言者の一切の債務を弁済し、遺言の執行に要する費用を控除した残金を次の通り分配する。
配偶者 〇〇(生年月日)2分の1
長男 〇〇(生年月日)4分の1
長女 〇〇(生年月日)4分の1
② ワンポイントアドバイス
- 遺産に不動産がある場合には、換金により相続人に譲渡所得が課税されます。事前に納税の予測をして節税対策も含めて準備しておくことが必要です。
- 兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。
- 遺言により財差をもらう方が先に亡くなる可能性もありますから、そのような場合に備えて予備的遺言の条文を入れて、財産を受け取る人が居なくならないようにしておきましょう。
- 相続税がかかる場合には、事前に相続税の対策をしておいて、相続人の手取りが減らないような準備も必要です。
5、 相続人以外の人にも財産を遺したい
お世話になった方、その他様々な理由により、相続人以外の方に財産を遺したい場合の方法です。
① 文案
第○条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、〇〇(住所、生年月日)に遺贈する。
1 土地の表示
2 建物の表示
② ワンポイントアドバイス
- 兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。
- 相続税がかかる場合には、財産を取得する相続人以外の方には2割の割増の相続税がかかります。事前にお話をしておいて相続税の準備も検討しておきましょう。
- 相続人以外の方が不動産を遺贈により登記する場合には相続人全員の協力が必要になります。遺言執行者をつけておくことをお勧めします。
- 遺言により財差をもらう方が先に亡くなる可能性もありますから、そのような場合に備えて予備的遺言の条文を入れて、財産を受け取る人が居なくならないようにしておきましょう。
6、 財産の一部は寄付したい
自分の財産を死後に寄付する方は増えています。このような場合の方法です。
① 文案
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を宗教法人○○に遺贈する。
不動産の表示
② ワンポイントアドバイス
- 寄付する財産に不動産がある場合には、事前に寄付先に受け付けてくれるかどうか確認する必要があります。現金以外の寄付は受け付けない場合もあります。
- 法人に対する寄付は、法人が原則として相続税の対象とならないことから、相続財産から除かれて相続税が計算されます。ただし、相続税逃れと認定されると法人も個人とみなされ課税されます。
- 相続不動産を寄付する場合には時価による売却とみなされて譲渡所得が発生します。この譲渡所得が赤字ではなく黒字になれば所得税が発生しますが、この所得税は相続人が負担することになるので、事前に非課税になる特例も含めて対策を検討しておくことが必要です。
- 兄弟姉妹を除く相続人には遺留分があるので、事前に話をしておく、付言事項を書くなどの対策をしておきましょう。