家族信託(民事信託)と商事信託の違いとは?詳しく解説
信託とは、財産の所有者が、財産を法人や信頼のおける家族などに託し、託された人が財産を管理・承継する方法です。財産の所有者が認知症など何らかの理由で、自分の財産を管理できなくなった時の対策として、利用されています。
信託には、家族信託(民事信託)と商事信託があります。家族信託と商事信託にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットも比べてみましょう。
1.商事信託とは
商事信託とは、財産の所有者(委託者)が、信託銀行や信託会社に財産(信託財産)を託し、財産管理や承継を託す方法です。
・信託報酬
信託銀行や信託会社(受託者)は、信託報酬を受け取って、財産を預かり、管理します。信託報酬は、銀行によっても、扱う信託によっても違いがあります。
・商事信託で信託できるのは金銭のみ
商事信託では、原則として金銭のみが信託できます。収益を生む不動産の場合は預かってくれることもありますが、条件によっては信託できないこともあります。また、信託できる金額は、最低でも数百万円から設定されていることが多く、利用するには様々な制限が設けられています。
・商事信託のメリット・デメリット
制限の多い商事信託ですが、煩雑な資産管理の負担が軽減できるというメリットがあります。
収益用の不動産の場合、受託者は、管理や運用のほか、建物の維持管理など多くの作業を行わなくてはなりません。これを個人でこなすのは大変な作業です。プロに任せる商事信託なら、安心です。
一方で、信託できる財産が、ほぼ金銭に限られている点や、信託の契約内容を委託者の要望に応じて変更できないという点がデメリットになっています。
商事信託では、信託の内容がある程度セットされていますので、その中から最も自分の希望に近いものを選びます。また、途中で契約の解除や変更もできない場合があります。
2.家族信託(民事信託)とは
家族信託は、財産の所有者(委託者)が信頼のおける家族・親族(受託者)に財産を託し、受託者が財産の管理・軽傷を行う方法で、民事信託とも言います。
家族信託は、委託者と受託者が信託契約を結んだうえで行われますが、基本的に報酬は発生しません。
・信託できる財産の種類が多い
商事信託との大きな違いは、信託できる財産の種類です。家族信託の場合は、金銭以外にも次のような財産が信託できます。
・土地・建物などの不動産
・有価証券類
・債権
・ペットなどの動産
・知的財産権(著作権・特許権など)
・家族信託のメリット・デメリット
家族信託のメリットは、余計なコストがかからないこと、どのように信託するかを自由に設計できる点などがあげられます。
ただ、現在はまだ家族信託の事例が少なく、個人で信託の契約を進めるのは、大変難しく、委託者と受託者の負担が大きい点がデメリットと言えます。
また、近くに信頼できる家族や親族がいない場合は、家族信託自体が成立しません。この点もデメリットとなってしまいます。
具体的に家族信託を進める場合はどのような手順を踏むのか、流れを追ってみましょう。
3.家族信託(民事信託)を行うには
財産の所有者が家族信託を行う主な目的は、
・自身が認知症になったときの対策として
・判断能力があるうちに財産分与を考えたい
・不動産の相続・管理に関するトラブルを避けたい
など様々あります。いずれにしても、家族信託を行うには、財産の所有者(委託者)による多くの判断が必要です。
・誰に信託するか
まずは、誰を受託者・受益者にするかを選ばなくてはなりません。
受託者とは、財産を委託され管理する人・受益者とは財産の管理・運営による利益を受ける人です。受託者と受益者が同一の場合や別の場合もあります。
委託者が信頼できる、そして健康な人であることも大切です。
・どの財産を信託するか
委託者は、どの財産を信託するかも決めておかなくてはなりません。
預貯金・不動産のほか、大事なペットのお世話も信託できますので、誰にどの財産を信託するかを慎重に考えることが大切です。
・信託する時期を決める
家族信託の契約は、信託を実行する時期も決められます。委託者が認知症と診断されたときから信託をするのか、いつまで信託するのかなども、きちんと決めておきます。
このように、家族信託(民事信託)は、商事信託に比べて、信託を決めるまでの作業が多く、関係者の負担が大きくなる傾向にあります。
4.家族信託の事例
具体的に家族信託をどのように勧め(進め?)ればよいのか、事例を見て説明をしましょう。
・収益物件の管理
Bさん夫婦は、所有しているマンションの管理・運営をしています。ですが、高齢になり、管理が大変になってきました。そこで長男にマンションの管理を任せたいと考えています。
Bさんは、家族信託により長男にマンションの管理・運営を託すことにしました。
Bさんが委託者であり、第一受益者です。受託者であり第二受益者の長男はマンションの管理・運営いずれは売却もできます。
Bさんは、マンションの利益は確保したまま、面倒な管理はする必要が無くなりました。いずれは、長男がマンションの売却もしくはリフォームをするかもしれませんが、それは長男の判断に任せる形になります。
・介護費用捻出と相続対策
Aさんは、現在一人暮らしです。息子と娘は結婚して少し離れた場所に住んでいます。最近体調のすぐれない日が多く、介護施設への入居を考えるようになりました。
そこで、不動産や預貯金などの財産を、息子に管理してもらおうと思いました。もし自分が介護施設に入居したら、息子に自宅の管理と売却を頼もうと考えています。Aさんが生きている間は、介護施設の費用を売却益から出してもらうことも決めています。
Aさんが亡くなったときは、息子と娘に財産を引き継がせ、現金も2人で分けるように希望しました。
この場合、Aさんが、委託者で、第一次受益者となります。
Aさんが亡くなると、息子と娘が第二受託者として財産を受け取ります。
この家族信託により、Aさんは安心して施設に入居でき、本人の判断能力が無くなっても、家庭裁判所の許可なしで自宅を売却することができるようになりました。
・認知症発症前に信託する
認知症になってしまうと、その人の資産が凍結されてしまいます。不動産も勝手に売却できないため、介護費用の捻出ができない恐れがあります。認知症と診断されると信託もできません。
最近は、先々のことを考えて、早めに家族信託を進める方が増えてきています。
5.まとめ
商事信託と家族信託(民事信託)の違いを一言で説明するなら、
・営利目的でプロが管理するため安心だが、柔軟性に欠ける商事信託
・比較的自由に信託でき、受託者の希望も入りやすいが、受託者への負担が大きくなる家族信託
となります。どちらを選ぶにしても、十分に検討して、自分の希望と家族の状況に応じた信託を選んでください。