事業承継をスムーズに! 持株会社の設立の効果とは?メリットとデメリットを解説
「事業の承継を考えないといけないが、不安が大きくてなかなか承継に踏み切れない」
近年、中小企業の事業承継問題に関心が高まり、それに伴って事業承継に関するこのようなご相談が増えてきました。承継後の経営や税金面、老後の資金など、さまざまな問題を抱えている経営者の方は非常に多いようです。
今回は承継方法の1つである持株会社の設立について、設立の流れやメリット・デメリットをご説明していきます。事業承継についての理解を深め、経営者・後継者ともに安心できる承継を実現しましょう。
◆【事例】電気工事会社を長男に引き継ぎたいAさん
社長として電気工事会社を長年経営してきたAさん(75歳)は、最近体力の衰えを感じるようになり、長男(51歳)に会社を引き継ぐことを考えはじめました。Aさんはこれまで事業承継について考えたことはありましたが、承継後の経営や承継する際の税金面などの不安が多く、なかなかアクションを起こせずにいたのです。そんな中、Aさんは「持株会社」を活用した事業承継を知り、専門家に相談することにしました。
専門家「近年は持株会社を活用して事業承継をする事業主の方が増えてきています。承継における負担を軽減できるため、メリットも多いですよ。」
Aさん「できるだけ税金を安く抑えたいと考えています。」
専門家「はい。早い段階からシミュレーションをしておくことで、承継にかかる贈与税や相続税を安く抑えることもできます。まずは、持株会社を活用して会社を承継する際の手順を確認しておきましょう。」
Aさん「よろしくお願いします。」
◆「持株会社」を活用して事業承継を行う方法
持株会社とは
持株会社は他の会社を支配するために、その会社の株式を保有する会社のことをいいます。別名「ホールディングス」とも呼ばれます。
持株会社には「純粋持株会社」と「事業持株会社」の2種類があります。純粋持株会社とは事業活動を行わずに株式を保有することのみを本業としている会社のことで、事業持株会社とは株式の保有だけでなく事業活動も行う会社のことです。
持株会社と聞くと、多くの方は前者の純粋持株会社をイメージするのではないでしょうか。以前は純粋持株会社の設立が禁止されていたため、持株会社を活用した事業承継を行う方はそこまで多くはありませんでした。しかし、純粋持株会社の設立が認められてからは、大きなメリットを享受できる方法として持株会社を活用した承継を行う方が増えてきています。
では、この持株会社を設立することで事業承継ができる仕組みを解説していきます。持株会社を用いた事業承継は、以下の流れで進めていきます。
①事業の後継者が出資して新会社を設立する ②新会社が金融機関から融資を受ける ③融資で得た資金で承継する会社の株式を買い取る ④新会社は買い取った株式からの配当を原資として融資を返済する |
このように、既存会社から後継者が設立した持株会社に株式を譲渡することで、既存会社は持株会社の子会社となります。つまり、後継者が持株会社を媒介して既存会社の経営権を得ることができるようになります。
◆持株会社を設立するメリット
持株会社を用いることで、スムーズな事業承継が実現できるだけでなく、承継後の生活資金や相続発生後の経営についての不安を解決することもできます。持株会社のメリットは以下のとおりです。
メリット① 株式の分散を防げる
持株会社を設立して事業承継をすることで、将来的に株式分散を防止できることが1つのメリットです。もし、持株会社を設立せずに相続で事業承継を行なったとすると、既存の会社の株式は先代経営者の相続財産となるため、後継者以外の相続人にも分割される恐れがあります。後継者以外の相続人に株式が渡ると、会社にとって重要な意思決定が難しくなるなどのリスクがあるため、株式の分散を防ぐことは事業承継にとって最も注意するべきポイントとなるのです。
その点、持株会社を活用した事業承継では既存会社の株式の100%を持株会社へ移転することができ、持株会社のみが株式を保有している状況を作ることが可能です。したがって、後継者が既存会社の経営権を握ることができ、承継後も安心して経営を任せることができます。
メリット② 相続税や贈与税の節税対策になる
税金面でのメリットがある点も持株会社の特徴です。例えば、相続や贈与などで事業承継をした場合、株式を受け取った後継者側に相続税や贈与税がかかります。しかし、持株会社を設立して既存の会社から株式を譲渡する場合には、持株会社側が支払うべき税金は発生しません。
後継者の税負担をなくして承継後の経営を安定させることができる点で、大きなメリットといえるでしょう。
ただし、持株会社に株式を譲渡する際には、既存会社側が支払うべき「譲渡所得税」が発生する可能性があります。それについては次章でご説明します。
メリット③ 先代経営者が現金を取得できる
事業承継を考えるとき、承継後の経営とともに不安になるのが老後の資金確保です。持株会社を活用した事業承継では、持株会社に株式を譲渡することで先代経営者が現金を取得でき、承継後の生活資金に充てられるという点もメリットとなります。
なお、相続発生まで資金不足にならないようにするためには、早い段階で事業承継について専門家に相談しておくことをおすすめします。
◆持株会社を設立するデメリットや注意点
メリットの多い持株会社ですが、一方で以下のようなデメリットにも注意しなければなりません。
デメリット① 譲渡所得税がかかる
既存会社の株式を持株会社へ譲渡することにより、既存会社側に「譲渡所得税」という税金が課税される可能性があります。
譲渡所得税とは、株式を取得金額よりも高い金額で売却した際に、その譲渡益に対してかかる税金のことで、税率は約20%と定められています。
株式の評価額が取得した当初よりも大幅に高くなっている場合には譲渡所得税も高額になりますので、承継前にしっかりと税金のシミュレーションを行い、資金を確保しておくことが大切です。
デメリット② 金融機関へ融資を返済する必要がある
持株会社を活用した事業承継では、既存会社の株式を買い取るために金融機関から融資を受ける必要があります。そのため、持株会社は設立当初から借入金を抱えることになるのです。
既存会社からの配当をあてにして融資を返済することも可能ですので、既存会社は持株会社に十分な配当をするだけの利益を上げ続けることが大切になります。
◆まとめ
今回は持株会社を活用した事業承継について、メリット・デメリットをご紹介しました。持株会社は事業承継に不安を抱える経営者・後継者にとって、負担が少なく多くのメリットを享受できる承継方法です。しかし、計画的に承継をしないと譲渡所得税や融資の返済に悩まされることにもなりかねませんので、事前に専門家に相談し、あなたに合った事業承継を実現しましょう。
ソレイユ相続相談室では、あなたの想いと会社の将来を見据えた後継者への事業承継を実現するお手伝いをいたします。事業承継に関するご不安やお悩みがありましたら、ぜひ一度ソレイユ相続相談室までご相談ください。