「遺言書に記載できる15のこと」③ 財産の処分に関する4つの遺言事項とは?
❏財産の処分について ドラマチックな事例も踏まえて解説
これまでの回では相続に関することや身分に関することをご紹介してきました。今回最後にご紹介する「財産の処分」とは、一体どのようなものでしょうか。
遺言書では財産をどのように処分してほしいのか、書き残すことができます。処分と言うと単なる消費に聞こえるかもしれませんが、わかりやすく言うと「財産の分け方」です。ご自身で所有していた財産は、死去後に相続人が受け継ぐことになり、遺言書ではどのように受け継いでほしいのか示すことができます。
第1回目の記事はコチラ→「遺言書に記載できる15のこと」① 相続に関する7つの遺言事項とは ?
第2回目の記事はコチラ→「遺言書に記載できる15のこと」② 身分に関する4つの遺言事項とは?
1.相続人以外にも財産を託せる! 包括遺贈・特定遺贈とは
遺言書の無い相続の場合、残された家族は民法上で定められている法定相続人が相続を行います。
被相続人が残した財産を受け継ぎ、必要に応じて相続税を納付します。相続人が相続する財産は現金や預貯金だけではなく、有価証券や不動産はもちろんのこと、借金に関しても受け継ぐことになります。
法定相続人は配偶者・子・両親・兄弟姉妹などの範囲に定められており、内縁関係のパートナーや養子縁組の無い連れ子の方は相続人にはなれません。遺言書の中では法定相続人にはなれない方に、「遺贈」と方法で財産を残すことができます。
遺贈は知人や友人、内縁の方など身近な人を選べるほか、法人に遺贈をすることも可能です。遺贈の方法には下記の2つの種類があります。相続人以外にもご自分の財産を残したい、そんな思いは遺言書に残せるのです。
・包括遺贈とは?
「私の財産を、2分の1を妻へ、残りの2分の1をお世話になった介護施設へ」こんな選択肢ができたら、ご自身の思いを財産として遺せるという達成感がありますよね。「私の財産は子ども3人でそれぞれ3分の1ずつ受け取ってほしい」と書き残すことも良いでしょう。
包括遺贈とは具体的に財産を指定せずに、割合を指定して行う遺贈です。
なお、気を付けるべき点として包括遺贈は「借金も包括している」という点です。もしも高額の借金がある場合は遺贈者に承継させてしまうため注意が必要です。包括遺贈はざっくりと割合で指定して気軽に遺贈できる分、次のようなトラブルもあります。
1)「親族で欲しい財産の奪い合い!」
包括遺贈でざっくりと、子どもたち3人で自分の財産を3分の1ずつ分け合ってね、と指定すると仮定します。しかし、財産には現金や預貯金だけでなく、みんなが欲しがらないような田畑や山があるとします。すると、誰がどの財産を受け継ぐのか奪い合いが始まり、遺産分割協議が難航してしまうリスクがあるのです。
2)「あなた誰!?見知らぬ人と遺産分割協議へ」
包括遺贈で遺贈先に相続人以外を指定する場合には、遺産分割協議を行う際に受遺者(※1)に相続人の誰も知らない人が混ざってくる可能性があります。遺産分割を行う際に「この人誰?」という不測の事態を招いてしまうため、遺言を残す際には死後の手続きも想像しながら想いを残すことが重要です。
・特定遺贈とは
特定遺贈は「私の預貯金は配偶者へ、有価証券は子へ」など財産を具体的に指定して相続させる方法です。
特定遺贈は包括遺贈とは異なり、借金も含めて相続をする必要がありません。思いを託したい法人などの団体に遺贈する場合には、借金がある場合には特定遺贈を行うことが一般的です。
特定遺贈は具体的な財産を指定してもらえるため、遺産分割協議で何をどのように相続するかを争う必要がありません。しかし、だからこそ不測の事態が生じることもあります。具体的には以下のとおりです。
1)「こんな財産いらないよ!?欲しい財産をもらえなかった」
特定遺贈は財産を指定する分、相続人からすると「欲しくない財産」をもらう可能性があります。現金や預貯金など流動性のある財産は喜ばれる傾向がありますが、現在住んでいない地域にある不動産は管理の煩雑さが増してしまい、不満を持つ方がいます。また、有価証券を指定する場合には、遺言書を作った時と比べると大幅に価値が下落し、「こんなのひどい!」とトラブルになる可能性もあります。
2)「不動産取得税が集中してしまい、相続人の負担に」
特定遺贈は「現金を妻に、不動産を子に」などを指定することができる分、不動産を多く取得した相続人が高額の不動産取得税を支払う可能性があります。相続税に加えて別の税金も負担することにより、非常に高額の税負担を抱えてしまい相続放棄を検討するケースもあるのです。相続人の経済的な背景も含めて、遺贈ができると良いでしょう。
(※1)受遺者
受遺者とは遺贈によって財産を受ける人のことです。対して遺贈をする人は遺贈者と呼ばれています。
2.近年話題?信託の設定とは
近年多くの信託銀行がセミナーや広告を積極的に行っていることもあり、注目が集まっている「信託」は遺言書の中で設定することができます。では、信託とはそもそもどんな制度なのでしょうか。信託とは、信頼できる人や機関にご自身の財産の管理や処分をしてもらう制度です。包括的に任せることができるので、安心感があります。「遺言信託」と呼ばれるものは信託銀行を遺言執行者に設定しておくこととして広く広告されていますが、相続税の申告なども含めると税理士への信託も選択の1つです。信託は次のような人におすすめです。
・お金を支払うことにより、遺言や相続について包括的なアドバイスをしてほしい方
・銀行など大手機関に自身の財産を預けることで安心感を得たい方
3.大切な生命保険をもっと活かそう!生命保険金受取人の変更とは
遺言事項の中では、生命保険金の受取人の指定や変更をできることはご存じでしょうか。生命保険は相続に上手に活用することで相続税対策に役立ちます。自らが支払っている生命保険であれば受取人指定や変更ができるのです。生命保険金は以下のような場合に役立てることがおすすめです。
・相続税の発生を抑えるために、現在の生命保険の契約が契約者・被保険者・受取人がすべてご自身の場合には、受取人を妻にする(非課税枠がある)
・法定相続人ではない内縁関係の方などに相続としてお金を残したい場合に、受取人を指定する
※生命保険と相続税の関係の記事はコチラをご覧ください。→「生命保険金に相続税がかかるか?」
4.財産を形にしたい!寄付・一般財団法人の設立とは
最後にご紹介をするのは、「寄付・一般財団法人の設立」です。生前にお付き合いのあった施設や団体に寄付をしたり、ご自身の思いを「財団法人」という形にすることができます。
遺言による財団法人の設立は遺言執行者が行います。一般財団法人の設立は複雑なため、遺言書の記載する際には予め専門家のアドバイスをうけることがおすすめです。あなたの財産を将来に役立てる方法としてご検討されてはいかがでしょうか。
❏遺言事項の前に考えておきたいこと
今回は、遺言事項の中で知っておきたい15のことを全3回に分けて詳しく解説しました。
遺言書は未来に託すためのメッセージですが、遺言事項を踏まえて効力のあるものを正しく作ることが大切です。また、遺言事項とは異なり法的な効力はないですが「付言」を残しておくことも大切です。
遺言事項は相続に関する「指示」であり、付言は「想い」です。付言とはなぜこのような遺言書の内容にしたのか、その想いを書き残すことを意味します。指示とその背景にある想いをセットにすることで、相続人間の無用なトラブルを防ぐ効果があります。
❏まとめ
ソレイユ財産管理では全3回に分けてご紹介しました遺言事項も踏まえた、「遺言書作成サポート」を実施しています。また、第三者の立場で安全に「遺言執行者業務」についてもおまかせいただけます。
ぜひこの記事をきっかけに、遺言書や相続などに関して「ソレイユ相続相談室」へお気軽にご相談ください。