遺言活用の一例

ご夫婦それぞれが、自分が先に亡くなった時の配偶者の相続手続きの負担を軽減したいとの思いから相談に来られました。本記事では、兄弟との関係が疎遠なご夫婦が選んだ遺言を活用した解決策について詳しく解説します。

兄弟関係が疎遠な高齢夫婦の相続対策事例

相談者の家族構成

夫(80歳)と妻(78歳)の二人暮らしのご夫婦です。お子様とは死別しており、孫や養子はいません。どちらかが亡くなった場合、相続人となるのは配偶者と亡くなった方の兄弟(全て存命)です。夫の兄弟は4名、妻の兄弟は3名います。

財産内訳

  • 夫:ご自宅敷地と建物1/2名義、預貯金500万円程度
  • 妻:ご自宅建物1/2名義、預貯金1,000万円程度

相談の経緯と課題

夫とその兄弟、妻とその兄弟がそれぞれ疎遠になっており、兄弟間でも仲違いしている状況でした。夫婦それぞれが「対策にあまりお金をかけることができないが、自身が先に亡くなってしまった場合、相手の財産分割の手間や負担等を少しでも和らげてあげたい」という気持ちを持っておられました。

提案した解決策

お互いに自身の財産を全て配偶者に相続させるという遺言を残すことを提案しました。兄弟には遺留分請求権(被相続人の財産の一定割合を請求できる法的権利)がありませんので、この遺言の執行により相続手続きを完了させることができます。また、遺言執行時に他の相続人の関与がないよう、遺言執行者としてそれぞれ配偶者を指定し、遺言執行者の意思により専門家等の第三者に遺言執行業務を委託できる旨の文言を加えることにしました。

他の選択肢の検討

相談の過程で、信頼できる親族の有無の確認や家族信託制度、予備的遺言制度についても紹介しましたが、特に心当たりのある方はおらず、お互いの手続き負担軽減を主目的としたため、これらの適用や記載は見送りました。

遺言の形式選択

自筆証書遺言の場合は紛失の恐れがあり、相続発生後に行う家庭裁判所の検認手続き等も煩雑であるという理由から、公証人費用等はかかりますが、不備なく確実に意思を残すことができる公正証書遺言での作成としました。

 

なお、令和2年7月10日から「自筆証書遺言保管制度」が始まり、法務局での保管も可能になりましたが、本事例では公正証書遺言を選択しています。

遺言作成の実施

公正証書遺言作成当日は、ご夫婦お二人で公証人役場に来られました。遺言の作成には二人の証人が必要となりますが、専門家(税理士・司法書士)を立ち会わせることで守秘義務にも配慮しました。無事、それぞれの公正証書遺言の作成が終わり、安堵した表情で仲良く帰られた姿が印象に残っています。

まとめ

本事例では、兄弟との関係が疎遠な高齢ご夫婦が、配偶者の将来の相続手続きの負担を軽減するために、公正証書遺言を活用した解決策を選ばれました。配偶者以外の相続人との関係が複雑な場合、このように遺言を活用することで、将来の相続トラブルを未然に防ぎ、遺された配偶者の負担を大きく軽減することができます。専門家のサポートを受けながら、ご自身の状況に合った相続対策を検討されることをお勧めします。