法定後見制度について

法定後見制度は、認知症や知的障害などにより判断能力が低下した方を法的に保護するための制度です。本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれ、家庭裁判所が適切な保護者を選任します。この記事では、各制度の違いや利用方法について詳しく解説します。

法定後見制度とは何ですか?

基本的な仕組み

法定後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方を法的に保護し、支援するための制度です。この制度は、既に判断能力が低下してしまった後に利用できる制度で、将来に備えて事前に準備する任意後見制度とは区別されます。

法定後見制度の主な目的は以下の通りです。

 

財産管理の支援:預金の管理、不動産の売買、各種契約の締結など
身上監護:医療・介護サービスの利用契約、施設入所の手続きなど
権利擁護:本人の利益を害する契約の取消しや詐欺被害の防止

制度利用の前提条件

法定後見制度を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。

1. 本人の判断能力が既に低下していること
2. 家庭裁判所による審判が必要
3. 医師の診断書の提出
4. 適切な申立人がいること

法定後見制度の3つの種類とは?

法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型に分かれています。判断能力の低下が重い順から「後見」「保佐」「補助」となっており、それぞれ保護者の権限や本人ができることの範囲が異なります。

 

判断能力の程度による分類

制度名 判断能力の状態 保護者の名称 主な対象
後見 ほぼない 成年後見人 重度の認知症など
保佐 不十分 保佐人 中程度の認知症など
補助 不十分(軽度) 補助人 初期の認知症など

 

選任プロセス

どの制度を利用するかは、以下のプロセスで決定されます。

 

1. 医師による診断:本人の判断能力の程度を医学的に評価
2. 家庭裁判所での審理:提出された資料を基に審査
3. 保護者の選任:本人に最も適した保護者を裁判所が選任

「後見」制度はどのような場合に利用しますか?

対象となる方の状態

後見制度は、精神上の障害によって判断能力がない常況にある方を対象とします。具体的には以下のような状態の方が該当します。

 

重度の認知症により、日常生活全般で判断・決定が困難
重度の知的障害により、契約の内容や結果を理解できない
重度の精神障害により、現実的な判断ができない状況が続いている

 

成年後見人の権限

成年後見人には、法律上包括的な代理権が与えられます。

 

財産管理権

• 預貯金の管理・解約
• 不動産の売買・賃貸借契約
• 各種保険の手続き
• 年金や給付金の受給手続き

 

身上監護権

• 医療に関する契約(ただし、医療行為の同意は除く)
• 介護サービス利用契約
• 施設入所契約
• 住居に関する契約

 

取消権

本人が行った契約で不利益なものについて、取消しを行う権限があります。

日常生活への影響

後見制度を利用すると、本人は以下のような制約を受けます。

各種資格の制限:医師、弁護士などの資格に影響する場合があります
婚姻など身分行為:本人の意思が尊重され、後見人の同意は不要です
選挙権:法改正により現在は制限されません

「保佐」制度の特徴と利用場面は?

保佐制度は、精神上の障害によって判断能力が不十分な方を保護します。具体的には

日常的な買い物や簡単な契約は自分で行える
重要な法律行為や財産に関する判断には支援が必要
中程度の認知症の方に多く利用される

 

保佐人の権限

同意権・取消権

法律で定められた特定の重要な行為について同意権・取消権があります。

 

• 元本を領収し、または利用すること
• 借財または保証をすること
• 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
• 訴訟行為
• 贈与、和解、仲裁合意
• 相続の承認・放棄、遺産分割
• 贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄
• 新築、改築、増築、大修繕
• 短期賃貸借を除く賃貸借契約

 

代理権

家庭裁判所の審判により、特定の事項について代理権が付与される場合があります。

 

利用の具体例

事例:田中さん(75歳)の場合

• 軽い物忘れはあるが、日常会話は問題なし
• 銀行での複雑な手続きや、不動産売買の判断が困難
• 悪質商法のターゲットになりやすい状況

このような場合、保佐制度により重要な契約について保佐人の同意を必要とすることで、本人を保護できます。

「補助」制度が適用される状況とは?

補助制度は、保佐制度と同様に判断能力が不十分な方を対象としますが、より軽度の障害の方に適用されます。

基本的な日常生活は自立して送れる
複雑な契約や重要な判断で部分的な支援が必要
初期の認知症や軽度の知的障害の方が対象

 

補助人の権限

補助人の権限は3つの制度の中で最も限定的です。

 

個別の審判による権限付与

同意権・取消権:家庭裁判所が審判で定めた特定の行為のみ
代理権:家庭裁判所が審判で定めた特定の事項のみ
本人の同意が権限付与の前提として必要

 

制度利用の流れ

1. 本人の同意確認:補助開始の審判には本人の同意が必要
2. 具体的な支援内容の検討:どの行為について支援が必要かを明確化
3. 家庭裁判所への申立て:必要な権限を具体的に申請
4. 補助人の選任:適切な補助人を裁判所が選任

保佐と補助の違いは何ですか?

判断能力の程度による区別

保佐制度の対象者

• 中程度の認知症
• 重要な契約の内容は理解困難だが、日常的な判断は可能
• 支援なしでは財産管理に重大な支障が生じる可能性

 

補助制度の対象者

• 初期の認知症
• 複雑な内容でなければ契約内容を理解可能
• 部分的な支援があれば自立した生活が継続できる

 

具体的な事例比較

中程度の認知症(保佐が適当)

• 自分の名前や家族は分かるが、時々場所が分からなくなる
• お金の計算が困難になり、高額な買い物で判断を誤る
• 複雑な契約書の内容が理解できない

 

初期の認知症(補助が適当)

• 日常生活にほとんど支障はない
• 時々物忘れがあるが、重要なことは覚えている
• 契約内容を説明されれば理解できるが、一人では不安

 

権限の範囲の違い

項目 保佐 補助
同意権の範囲 法定の重要行為 審判で定める特定行為
代理権 審判により付与可能 審判により付与可能
本人の同意 代理権付与時のみ必要 制度利用開始時から必要

法定後見制度の申立て手続きはどうすればよいですか?

申立て手続き

法定後見制度の申立てができるのは、以下の方々です。

• 本人
• 配偶者
• 四親等内の親族(親、子、兄弟姉妹、甥姪、いとこ等)
• 市町村長(身寄りがない場合など)
• 検察官(特別な事情がある場合)

 

必要な書類

基本書類

• 申立書(家庭裁判所の様式)
• 申立事情説明書
• 親族関係図
• 本人の戸籍謄本
• 本人の住民票

 

医学的書類

• 診断書(家庭裁判所の様式、主治医が作成)
• 愛の手帳(療育手帳)や精神障害者保健福祉手帳(該当する場合)

 

財産関係書類

• 財産目録
• 預貯金通帳のコピー
• 不動産登記事項証明書
• 年金証書のコピー

費用について

法定後見制度の申立てには、まず基本的な手数料として申立手数料800円と登記手数料2,600円(いずれも収入印紙)が必要です。これに加えて郵便切手代が約3,000円から5,000円程度かかります。

また、医師による診断書作成費用は医療機関により異なりますが、一般的に5,000円から10,000円程度となります。さらに、家庭裁判所が必要と判断した場合には、専門医による鑑定費用として5万円から10万円が追加でかかる場合があります。

手続きの流れ

申立ての手続きは段階的に進められます。最初に家庭裁判所や専門家への事前相談を行い、制度の概要や必要な準備について確認します。次に必要書類の収集・作成を行い、準備が整ったら家庭裁判所へ申立書を提出します。提出後は裁判所による書面審査や関係者への面接などの審理が行われ、最終的に後見人等の選任が決定されます。審判確定後は後見登記等ファイルへの記録が行われ、正式に制度の利用が開始されます。

成年後見人等の役割と責任について

選任される人の傾向

近年の成年後見人等の選任状況を見ると、専門職が選任されるケースが大幅に増加しています。司法書士が約35%と最も多く、次いで弁護士が約25%、社会福祉士が約15%となっており、親族が選任されるのは約20%程度となっています。その他の専門職(税理士、行政書士等)が約5%を占めています。

主な業務内容

成年後見人等の業務は大きく財産管理業務と身上監護業務に分かれます。財産管理業務では、日常的な金銭管理として生活費の支払いや預金の管理を行い、重要な財産行為として不動産の売買や相続手続きを担当します。また、介護サービスや医療、住居に関する契約行為の締結、さらに収支記録や契約書類の適切な保管も重要な業務です。

 

身上監護業務については、医療関係では医療機関との契約締結や治療方針についての相談を行います。介護関係では介護サービスの利用契約やケアプランの確認、住居関係では住まいの確保や施設入所手続きを担当します。さらに本人に必要な教育やリハビリテーションサービスの利用支援も行います。

家庭裁判所への報告義務

成年後見人等には継続的な報告義務が課せられています。年次報告として毎年、本人の財産状況や生活状況について詳細な報告を行う必要があります。また、本人の住所変更や入院・入所など重要な変化があった場合には、その都度家庭裁判所に報告しなければなりません。さらに、就任時および毎年の年次報告時には、本人の財産を詳細に記載した財産目録を提出することが求められます。

よくあるご質問

Q1. 法定後見制度を利用すると、本人の自由は制限されますか?

A1. 本人の残存能力を最大限尊重することが原則です。日常的な買い物や趣味の活動など、本人ができることは制限されません。ただし、高額な契約や重要な財産処分については、保護者の同意や代理が必要になります。

Q2. 家族以外の人が後見人になることはありますか?

A2. はい、近年は専門職後見人(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が選任されるケースが約8割を占めています。家庭裁判所は、本人の財産状況、親族関係、必要な支援内容等を総合的に判断して、最も適切な人を選任します。

Q3. 後見人等への報酬はどのくらいかかりますか?

A3. 家庭裁判所が決定する報酬の目安は以下の通りです。

基本報酬:月額2万円〜6万円
付加報酬:困難な案件処理等で追加される場合がある 親族が後見人等になる場合は、報酬を請求しないケースも多くあります。

Q4. 一度選任された後見人等は変更できますか?

A4. やむを得ない事情がある場合は変更可能です。ただし、家庭裁判所の許可が必要で、正当な理由(後見人等の病気、転居、本人との関係悪化等)が必要です。単なる好みの問題では変更は認められません。

Q5. 法定後見制度以外に選択肢はありますか?

A5. 判断能力が十分な間に準備できる「任意後見制度」や、日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)などがあります。本人の状況に応じて最適な制度を選択することが重要です。

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