再婚同士の夫婦の遺産相続 子どもたちと争わない遺産分割協議の方法
■離婚経験がある方同士で再婚した場合、相続はどうなる?
再婚同士の結婚も決して珍しくなくなった現代日本においては、若年層の再婚も熟年離婚を経ての再婚も増加傾向と言われています。特に超高齢化社会の日本においては、伴侶を亡くされた後に再婚をする方もおられ、一体自分が亡くなった場合や再婚した相手が亡くなった場合の「相続」がどのように行われるものか複雑に感じられている方も多いのではないでしょうか。そこで、まずは今一度相続人とはどのように決められているのか触れていきましょう。
法定相続人のしくみとは
遺産相続が発生した場合には、相続権を持つ法定相続人に相続がなされます。法定相続人は順位があります。また、配偶者は常に法定相続人になるため、例として再婚同士の結婚で夫が亡くなった場合には、前妻ではなく再婚後の妻が法定相続人になります。
1.第1順位は直系卑属
相続は「直系卑属」と呼ばれる方々が第1順位です。直系卑属とは子、孫が該当します。
2.第2順位は直系尊属
相続の第2順位は「直系尊属」と呼ばれる方々が該当します。直系尊属とは親、祖父母です。例として、未婚でお子様もいない方が亡くなった場合は親が存命なら相続人になります。第1順位が存在しない、あるいは相続放棄をした場合には第2順位が相続人になります。
3.第3順位は兄妹や姉妹
相続の第3順位は兄妹や姉妹です。未婚でお子様もおらず、親も亡くなられているケースでは、ご兄弟が相続人として該当します。また、第1順位や第2順位が相続放棄を進めたケースも第3順位の方が相続人に該当します。
参考記事はコチラ→国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
再婚同士の遺産相続では第1順位が複雑化しやすい
法定相続人は配偶者の次に第1順位が相続人になりますが、この点が大きなトラブルになりやすいことをご存じでしょうか。
ここで例として、再婚同士のご夫婦の夫が死去されたと仮定しましょう。
夫と前妻の間に子がいる場合には、子は第1順位になるため相続人に該当します。
再婚後にも子が生まれている場合にはこちらの子も第1順位になるため相続人となります。いわゆる異母兄弟(姉妹)がともに第1順位の相続人として並列となるのです 。
異母兄弟(姉妹)同士は存在を知っていても面識が全くない場合もあります。さらには相続の段階となってから父の再婚後に異母兄弟(姉妹)が生まれていたことを知る、という方も決して珍しくないのです。前妻との離婚理由等によっては相続人となった子同士が揉めることも想定されます。このように再婚同士の遺産相続では、第1順位である子が相続時にトラブル化しやすいのです。
非摘出子と摘出子の問題とは?
再婚同士の相続は第1順位の部分で問題が複雑化しやすいと触れましたが、もう一歩難解なケースにも触れましょう。「非摘出子※1」と「摘出子※2」の問題です。再婚を決意するときには、前の結婚の経験も踏まえると気楽さもある「内縁関係」を選択される方もいます。内縁関係の場合、相続に影響しない生命保険の受取人になることなどは可能ですが入籍をしていないため配偶者ではなく、法定相続人にはなれません。また、内縁関係のままで子が生まれた場合には「非摘出子」と呼ばれ相続時には子として認知されていることが条件です。平成25年以前は非摘出子と摘出子との間では法定相続分は異なっていましたが、現在は平等に扱っています。つまり、認知していれば非摘出子も含めて相続手続きを行う必要があります。
※1 非摘出子とは…婚姻関係がない男女間で生まれた子のことです。内縁は入籍をしていないため婚姻関係はありません。非摘出子が子として相続人になるためには、民法第772条第1項に定める通り、認知の手続きが必要です。
※2 摘出子とは…婚姻関係中に生まれた子のことです。
連れ子と呼ばれる立場の方は相続人になれない
再婚同士の場合には前妻・前夫との間に子どもがおり、いわゆる「連れ子」として一緒に再婚しているケースもあります。すでに連れ子の方の年齢が大きい場合には再婚後養子縁組をなされていないこともよくあります。再婚同士で妻側に連れ子がおり、新たな夫と子の間で養子縁組をしていないと仮定しましょう。すると、再婚後の夫と連れ子の間には親子関係がありません。夫が死去してしまうと、配偶者である妻は法定相続人になれますが、連れ子の方はなれないのです。
養子縁組がトラブルになることも
また、連れ子を養子縁組すれば親子関係が生じるため相続人になります。この点もトラブルにつながりやすい問題です。上記のケースで説明すると、死去した夫の前妻との間に子がいる場合には第1順位の相続人になります。養子縁組をした連れ子も、もちろん第1順位の相続人となります。養子縁組をしていたことを前妻の子が知らない場合には思っていた相続分より少なくなるわけですから、トラブルになることがあるのです。つまり、養子縁組を行うなら相続も視野に再婚前の家族にも知らせておくなど対処を行っておく必要があります。なお、養子縁組ができる人数に制限はありませんが、相続の基礎控除上には制限がありますので注意しましょう。(実子が要る場合には1人、いない場合には2人まで)
※参考記事はコチラ→普通養子縁組と特別養子縁組
■再婚後の相続を円満に乗り越えよう!争わない遺産分割協議のコツとは
これまで説明のとおり、相続には第1順位の子同士がトラブルになることがあります。残された財産を円満に相続し、「争族」にさせないためにはどうするべきでしょうか。そこで、遺産分割協議の争いを防ぐ3つのコツをご紹介します。
1.生前対策を始める:遺言状を作ろう
再婚同士の相続人は離婚前の家族関係や再婚後の出産、連れ子の問題などデリケートな問題が多数横たわっています。問題を1つずつ整理する、そして残される方のためにも「遺言状」を作ることがおすすめです。遺言状にはいくつかの種類がありますが、公正証書遺言は家庭裁判所の検認も不要であり効力もあるため広く活用されています。遺言執行者を決めたり、財産の分配も決めたりすることもできるので無用なトラブルを防ぐことも可能です。但し、「遺留分※3」について十分に検討の上遺言書を作成しないと、相続時に紛争化する可能性があるので注意しましょう。
※3 遺留分とは
亡くなった被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得分です。例として、遺言書で前妻との間に1人、再婚後に生まれたが1人いるとしましょう。遺言状で全ての財産を再婚後に生まれた子に相続させる、と記しても前妻との子にも遺留分は保障されており最低限の相続はさせるようにと請求される可能性があります。
2.生前対策を始める:養子縁組には気配りを
連れ後に相続を通して財産を残したい場合には、養子縁組を行うことがおすすめですが、先にも触れたように前の結婚時にも子がいる場合には養子縁組を知らせておくなど生前からなるべく温厚な人間関係を作っていくことが大切です。あえて養子縁組はせず生命保険の受取を連れ子に指定する、などの対策方法も考えられます。
3.万が一の相続時には:相続人調査を行い、漏れの無い手続きを
もしも相続が発生した時には、再婚した今の配偶者と異母・異父の兄弟姉妹で相続手続きを乗り越える必要があります。双方が相続人をしっかり調査しなければ相続手続きに漏れが起きてしまう、後に紛争化してしまうなどのリスクがあります。生前から相続人を把握しておくことも望ましいですが、急なご逝去に伴う相続の場合も、慌てず調査を行いましょう。
■まとめ
この記事では再婚同士の遺産相続について解説しました。再婚が増えている今だからこそ、生前からトラブルを見据えて準備を始めることがおすすめです。税務上のご不明点などは、お気軽に税理士へご相談ください。