困らない認知症・相続対策! 家族信託と任意後見制度の違いを比較
1.家族信託と任意後見を利用するための最低条件
無料相談会で、こんな質問をよくいただきます。
「家族信託と任意後見制度は、どちらがいいのでしょう?」
ご質問にお答えする前に・・・どちらも選択するうえで共通の確認事項があります。
財産をお持ちの方の判断能力に問題がないとすると、どちらを使うかの判断になりますが、前提として、家族信託と任意後見制度は、併用することができます。どちらかを使えばどちらかが使えなくなる・・・というわけではありません。ただ併用するとコストがかかります。
判断能力が十分でない人を法的に守るための「成年後見制度」ですが、法定後見制度と任意後見制度の二つに分けられます。
ここで、法定後見制度と任意後見制度の違いを簡単に説明します。
本人の判断能力が、すでに衰えている場合には、本人の権利保護、財産保護のために申立人が家庭裁判所に後見の申立てを行うことにより法定後見が開始されます。
これに対して、任意後見は、本人の判断能力に問題がない時点で後見契約を結び、実際に判断能力が衰えた場合に後見を開始します。
2.家族信託が選ばれる4つの理由
私どもで相談を受けた方々の判断基準として、家族信託を使える場合には家族信託を優先して選択している方が多いです。
また、私どもも家族信託が使える場合には優先してお勧めしています。
家族の間に家庭裁判所の管理を入れたくないとお考えの方は、むしろ任意後見制度や法定後見制度を使わないために家族信託を利用される場合が多いです。
相談者の皆さんが家族信託を選ばれた理由と、私どもがおススメする理由をまとめました。
①初期費用
家族信託は、任意後見制度に比べて初期費用が高くなります。
●家族信託…50万円から100万円 ●任意後見制度…10万円~30万円
ただし、任意後見制度では、家庭裁判所によるチェック(監督人)の月額報酬(家族信託0円/月、任意後見1万円~3万円/月)が相続開始まで(亡くなるまで)続くので、経済的負担は大きくになる可能性が高いです。
②財産管理の自由度
任意後見制度(成年後見制度)の家庭裁判所による財産管理の基準は厳格で、相続税の節税のために行う行為や、不動産の再投資のための借入や売却は難しいです。これに対して家族信託は節税設計に基づく財産管理や不動産の売却も家族間の契約条項で可能になります。
③世代を超えた財産承継
任意後見制度は本人一代で終了しますが、家族信託は財産を預ける人が、子や孫のために世代を超えて財産を承継させる設計ができます。障がいのあるお子さんやお孫さんをお持ちの方は、任意後見ではできない障がい者へのサポートを設計できます。
④大きなデメリットがない
任意後見制度で可能な身上監護(施設入居や手術の同意等の代理)は、財産管理を目的とする家族信託契約では行えません。ただ、身上監護で可能な手続きはご家族であればできるので大きなデメリットにはなりません。
上記の理由で、家族の間に家庭裁判所の管理をいれたくないとお考えの方は、むしろ任意後見制度や法定後見人制度を使わないために家族信託を利用される場合が多いです。
3.任意後見制度と家族信託の手続きを比較
さらに、詳しく任意後見制度と家族信託制度をご説明します。
<任意後見制度>
●自らが後見人になってもらう人をあらかじめ選任
認知症などになる前に、自分で後見人になってもらう人を選び、契約(任意後見契約)を結んでおきます。任意後見人になってもらう人は親族でもかまいませんし、報酬を支払って、弁護士・司法書士等になってもらうこともできます。
●契約は必ず公証人役場で公正証書にする
任意後見契約は、公正証書にしなければ法的効力がありません。この契約で委任する内容は、本人の判断能力が低下した場合の、生活・医療看護・財産管理等に関する事務です。その契約内容の代理権を任意後見人に与える形になります。ただし、結婚・離婚・養子縁組などの一身専属的な権利については、任意後見契約に盛り込むことはできません。
●任意後見契約の締結後は法務局に登記される
任意後見契約が締結されると、公証人の嘱託によって法務局で“後見登記事項”として登記されます。
後見人として、被後見人の方の財産管理や身の回りの代理行為を行うためには、正式に後見登記がされていなければなりません。
もしも、自分が後見人であるという事実を証明しなければいけない場合には、法務局で登記事項証明書という書類を発行してもらいます。
●本人の判断能力に問題が生じた段階で家庭裁判所に申立てする
本人や任意後見人の予定者(上記の貢献登記に記載された人)などが家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人を選任してもらいます。この任意後見監督人の選任をもって、任意後見人の代理権が発生(任意後見契約が発効)します。
任意後見契約の発効後に、後見人が本人に代わって財産管理等の事務を行い、それを任意後見監督人がチェックします。家庭裁判所は直接監督するのではなく、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じての監督になります。
任意後見契約の財産管理において注意しなければならないのが、、任意後見契約を締結していても、認知症などで判断能力に問題が生じなければ、後見人が財産管理を行うことはできないことです。たとえば、事故で寝たきりになったとしても、判断能力があれば、任意後見契約はスタートしません。
<家族信託>
●家庭裁判所を頼らずに家族間で財産管理できる
家族信託は、家庭裁判所を通さずに、家族間で財産管理をする方法です。家族信託で財産を預ける人(財産を持っている人)を委託者と言います。信託契約で財産を預かる家族を受託者と言います。預かった財産から支払等を受ける人を受益者と言います。
簡単な例で言うと、将来の認知症が心配な父(委託者)が自分の財産を、家族信託契約で長男(受託者)に預けます。家族信託契約の目的は、父の生活費の支給、医療費介護費用の支払、施設入居費の支払等です。父が受益者となり、受託者の長男から財産管理の提供を受けます。
家族信託は家族間の契約ですから、そこに家庭裁判所が入ることも無いし、信託という名前がついていても信託銀行が介入することもありません。受託者が報酬をとらなければ初期報酬のみで運営していくことができます。
●契約と同時に効力が発生する
家族信託は、契約と同時にその効力が発生するので、父名義の預金を信託する額を決めて、長男名義の信託口座に預けることになります。
信託口座と言っても、長男が自分の財産と父から預かった財産を分別して管理することが主目的の長男名義の銀行口座です。
父が元気なうちに信託契約を発効させてしまうので、父が認知症になっても長男に預けた預金は、長男が引き出して父のために使えますし、振り込み詐欺等の被害に合うこともありません。
4.家族信託と任意後見 「できること」「できないこと」
●家族信託は任意後見と比べ自由な設計ができる
任意後見制度は、本人が亡くなると終了します。
家族信託は本人が亡くなった後に、預かった財産を契約に書いてある通りに承継させる遺言と同じ機能があります。
さらに、長男に預けた財産を最初は父が受益者となって使い、父が亡くなった後は、母のために使うことができます。その財産を母が相続したと同じように承継できます。
これは遺言にはできない機能です。
●任意後見人のできることは限られている
任意後見制度では、本人の相続税対策を行うことができませんが、家族信託契約なら、節税計画に基づいて契約した通りの財産承継を行うことができます。
また、不動産の売却や建設、それに伴う借入も信託契約に織り込んでおけば受託者の名前で行うことができます。
これに対して成年後見制度は、あくまでも本人の財産の維持管理を目的とする制度ですから、支出についても、認められるのは基本的に必要最小限のものになります。
●任意後見人は投資や運用はできない
任意後見人は、例え本人の財産を増やす目的であっても、積極的な投資や運用をすることはできません。
任意後見人の行う財産の処分にも制限があります。本人が不動産を所有している場合には、任意後見人が付いても、原則的にはその不動産をそのまま維持することになります。
成年後見制度は、法律にもとづき厳格な運用がされています。後見人はその職務について家庭裁判所の監督を受けることになり、勝手に何でもできるわけではありません。
●任意後見人は身上監護を行うことができる
任意後見人の職務の一つとして、身上監護があります。
身上監護とは、被後見人の身のまわりの手続き、つまり、生活、治療、療養、介護などに関する手続きを行うことです。次のような手続きが身上監護に該当します。
・医療に関する手続き
・介護に関する手続き
・療養看護に関する手続き
・リハビリに関する手続き
・施設の入退所に関する手続き
・住居の確保に関する手続き
※被後見人の介護そのもの(本人の介護をしてあげること)は身上監護に含まれてはいません。任意後見人の行う身上監護とは、あくまで法律行為(手続きの代理)になります。
これに対して、家族信託では、受託者は身上監護を行うことはできません。家族信託で任せられるのは、財産の管理や処分に関することのみとなります。
ただし、身上監護は家族信託の受託者の立場ではできませんが、家族の立場(例 長男)なら行うことができます。
老後の対策で身のまわりの手続きを誰かにやってもらいたいニーズが中心なら家族信託だけでは不十分ということになります。
5.まとめ
自分の老後は自分で決めたい方にとって家族信託や任意後見の活用は不可欠です!!
どちらの制度も誰かに、ご自身の財産を預けて管理してもらう点や、判断能力が正常であるうちに契約を結んでおく必要がある点でよく似ています。
ただ、効力が発生するタイミングや手続き、コスト面で大きく違います。
「任意後見制度」と「家族信託」のそれぞれの特徴を踏まえ、認知症対策だけではなく、相続対策も併せて検討することが望ましいでしょう。
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