家族信託と他制度、各専門家のメリットデメリットを比較
例えば、ご家族に認知症等で財産の管理ができない方がいるようなケースで、家族信託が普及する前は、成年後見制度を利用する方が多かった半面、後見人がする財産管理において、意外とトラブルになることもありました。
また、家族信託を専門家に依頼する場合には、それぞれの専門家の中でも、得意・不得意の分野があるので、専門家に依頼したから安心とは言い切れない部分もあります。
相続も絡めて考える必要があるケースが多いため、1つの専門分野だけで完結できない場合もあります。
家族信託と他の制度や各専門家へ依頼する場合のメリットデメリットを比較してみました。ぜひお役立てください。
家族信託と他の制度の比較
成年後見制度
成年後見制度も家族信託と同様に、認知症の対策で活用される制度です。
成年後見制度は認知症等の方のために下記のような場合に使われています。
- ①預貯金の管理・解約
認知症等になると預金は封鎖と同じで自分では下ろせなくなります。 - ②介護等の施設入居のための介護保険の契約
家族ならできることも家族がいないとできないし、成人でないとできない手続きもあります。 - ③身上監護
生活の面倒だけでなく、治療、療養、介護などに関する法律行為を行うこと - ④不動産の処分
判断能力が無くなると預金の解約と同様不動産を本人が売却できなくなります。 - ⑤相続手続 遺産分割協議や預金の名義変更は判断能力がないとできません。
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の二種類があります。
任意後見制度
本人に判断能力があるうちに、将来ご自分の判断能力が不十分となった時に備えるための制度です。
ご本人が任意後見人を選び、公正証書で任意後見契約を結んでおく制度です。
本人が認知症等になった場合には任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて、任意後見人を監督する体制になります。
法定後見制度
既に本人が認知症等になり、判断能力が不十分な時に、家族等の申立により家庭裁判所によって選任された後見人等が、本人に代わって財産や権利を守り、本人を法的に支援する制度です。
本人の判断能力が低下してしまうと、口座が凍結されるなど成年後見人でなければ口座凍結の解除ができません。
成年後見人は家庭裁判所が選任するので、後見人になりたい親族がなれるとは限りませんし、親族が選任されるとも限りません。
一定の金額以上の財産を持っている人は専門家が選任されます。
家庭裁判所から選任された成年後見人は、被成年後見人となった本人の財産を守るのが役目です。財産を生前贈与したり、相続税の節税を計画したりする行為はできません。また、財産は被後見人本人のために使うのが仕事で、親族に財産を承継する義務もありません。
例えば、賃貸物件の修繕などで借り入れをしなければならないといった場合でも、基本的に家庭裁判所から認められないので資産運用も行き詰ってしまうことも。また、成年後見人はご家族に財産の状況などの報告義務もありません。
そのため、家族のために次の相続を考えてやっておきたい相続税対策なども難しくなります。
また、成年後見人や後見監督人はタダで仕事をやってくれるわけではありません。財産額に応じて毎月の報酬が決められ、本人の財産から支払われます。
成年後見人は家庭裁判所へ毎年財産状況の報告義務があります。※
※任意後見契約があり、ご家族が後見人になっている場合で後見監督人が選任されている場合は、後見監督人に報告します。
民事信託(家族信託)
成年後見制度が法制化された2000年から7年後の2007年に『信託法』が大きく改正され、信託の活用が一般化しました。これが家族信託の始まりです。
信託は営利を目的とする、信託銀行が行っている商事信託と、そうでない民事信託に分かれています。民事信託の中で、信頼できる家族に財産を預ける(信託する)行為を「家族信託」と呼んでいます。
家族信託は、認知症等で判断能力に欠けてしまうリスク対策だけでなく、幅広く財産管理をする機能を持っています。さらに遺言の機能もあります。
また、民法では不可能だった、二次相続以降の財産の承継先も家族信託契約であれば行うことが可能になります。
成年後見制度と遺言を家族信託と比べてみると、カバーできる範囲の違いがわかります。
弁護士、行政書士、司法書士、税理士に依頼した場合のメリット・デメリット
弁護士
メリット
弁護士は法律の専門家です。
弁護士によって得意不得意の分野はありますが、争いになった場合にも代理人として相手方と話ができます。
家族信託についても事前に相談することでトラブルの防止などのアドバイスが得られます。
デメリット
弁護士に依頼した場合の費用は、他の士業に比べて高額になります。
費用の相場としては信託財産額の1%~とするところが多く見受けられます。
財産額により違いますこれに別途信託契約書作成の費用がかかる場合もあります)
また、法律相談は、初回無料で行っているところもありますが、5,000円/30分や10,000円/1時間など、有料としている事務所が多いです。
信託の税務については、税理士登録をしている弁護士であれば対応可能ですが、専門的ではない事務所が多く見受けられます。
信託契約の税務チェックは、別途税理士に依頼する可能性が高いといえます。
行政書士
メリット
行政書士は権利義務に関する書類を作成する専門家です。
契約書の作成のプロなので知識や経験も豊富で、家族信託を扱う事務所が多く見受けられます。
行政書士の中には、成年後見や相続業務を専門としている人もいますので、例えば認知症や相続の心配事をどの書面(遺言。信託契約・任意後見契約など)にするかなどもアドバイスをもらえます。
また、一般的に行政書士に遺言や契約書作成を依頼すると、弁護士に依頼た場合と比べて費用が格段に少なく済みます。
デメリット
信託財産に不動産が含まれている場合には、行政書士が不動産登記申請をすることはできません。
不動産登記申請は自分で手続きするか、司法書士に依頼する必要があります。
また、行政書士は、信託契約の内容によって相続人や利害関係人との間で争いが起こった場合でも、交渉することができないため、その場合は弁護士に相談や依頼をすることになります。
信託契約内容に係る課税リスクや相続税や贈与税などの相談も、別途税理士に依頼することになります。
司法書士
メリット
信託財産には、不動産が含まれることが多いため、不動産登記の専門分野に特化した司法書士に依頼することで、改めてほかの士業にいらする手間が省けます。
また、相続に特化している司法書士も多いため、相続関係の書類作成についても詳しく、将来的に信託が終了時に不動産が残っていた場合に、指定された人(帰属権利者)の名義に登記ができるのかまで考慮しながら契約書を作成できます。
費用面では、行政書士の報酬額設定とほぼ同様とされていますが、信託財産に不動産が含まれている場合は報酬額が高くなります。そのほかに別途信託登記の費用がかかります。
デメリット
行政書士と同様に、相続人や利害関係人との間で争いが起こった場合でも、交渉することはできません。
その場合は弁護士への依頼が必要となります。
また、行政書士同様、税務の相談はできないため、信託契約内容に課税リスクがないかなどは、別途税理士に依頼することになります。
税理士
メリット
家族信託は税務対策をせずに家族信託を始めると課税のリスクがあります。
例えば、家族信託で信託から利益を受ける受益者を誰にするのか、もし信託が終了したときに受益者が不在…という契約内容になっていたら、多額の税金が課税される恐れもあります。
信託財産にも税金はかかりますので、特に、信託設定から終了までの各ステージ(信託設定時 → 信託期間中 → 信託終了時)の課税関係には注意が必要です。
ほかの士業から「税務対策なしの信託は怖い」と言われる理由はここにあります。
また、事業をされている方が家族信託する場合も、その資産の動きが課税リスクになるのかどうかなども含め、二次相続、三次相続時に財産を誰にどのように受け継がせるかなど、先のことまで相談することが可能です。 税理士に家族信託を依頼すると、信託期間中に当事者が変わる際の税金や、将来的な贈与税や相続税についても考慮しながら、信託契約の内容を決めるられることがメリットといえます。
相談料については無料の事務所も多いので、費用負担は少ないといえます。
デメリット
家族信託に精通した税理士がまだまだ少なく、選択を間違えると「こんなはずではなかった」と税金で思わぬ痛手となることも。
また、税務には欠かせない専門家ですが、登記申請や相手方との交渉などは他の士業に別途依頼する必要があります。
それぞれの専門家に依頼するメリットとデメリットを見てきましたが、結局、だれに依頼するのがよいか分からない場合は、ソレイユ相続相談室の家族信託専門相談室にご相談ください。
当相談室には、相続コーディネーターが在籍しており、ご相談者様のお話を伺い、ご家族が安心して生活できることを第一に考えて各専門家への橋渡し役をさせていただきます。
家族信託を始めたいけれど、「何がリスクか分からない、自分にはどの専門家が必要?」「あちこち行って結局費用が高くなるのは避けたい」とお考えの方は、ぜひ当相談室へご相談ください。
相続コーディネーターが、皆様に必要な専門家との間に入り、各専門分野を網羅した、二つとない信託契約内容となるようにサポートいたします。