贈与税制度を賢く利用!海外に住む子どもへの住宅資金の贈与の仕方
「海外に住む子がマイホームの購入を検討しているため、資金援助をしてあげたい。」
このようなご相談を多くいただきます。
通常、子に住宅購入資金の贈与を行う場合には、いくつかの贈与税制度を利用して、支払う贈与税の負担を少なくすることができます。住宅購入資金の贈与に利用できる贈与税の特例は、以下の2つです。
①住宅取得等資金の贈与 ②相続時精算課税 |
では、海外に住む子に贈与する場合には、これらの特例を利用することができるのでしょうか。
今回は、上記の特例が利用できるのか、それぞれの適用要件と照らし合わせてご説明します。贈与税制度について理解を深め、スムーズな贈与を実現できるようにしましょう。
■「住宅取得等資金の贈与」は使えるのか
住宅取得等資金の贈与とは、父母や祖父母などの直系尊属から、自分が居住する住宅の新築や取得、または増改築等の対価に充てるための金銭の贈与を受けた場合に、贈与財産の一定額までが非課税となる特例です。
この制度は、本来令和3年12月31日までに住宅を取得した場合にのみ、適用できる特例だったのですが、「令和4年度税制改正大綱」により令和5年12月31日までに延長されました。
この制度の非課税額は、取得する住宅の形態によって異なります。住宅の形態ごとの非課税額は以下のとおりです。
住宅の形態ごとの非課税額
住宅の新築等に係る 契約締結日 |
省エネ等住宅 |
左記以外の住宅 |
期間に関係なく |
1,000万円 |
500万円 |
※省エネ等住宅とは、断熱性や耐震性、バリアフリーなどに優れた住宅のことです。
省エネ等住宅を取得するための資金援助であれば、最大1,000万円までを非課税で贈与することができるのです。
例えば、バリアフリーに優れた住宅を新築したいという孫のために、祖父が1000万円の贈与をしたとします。この場合、省エネ等基準に適合することが証明されると、1,000万円の非課税枠が認められるため、孫にかかる贈与税の課税対象額は以下のとおりになります。
贈与税の課税対象額=贈与額1000万円−非課税額1,000万円=0円 |
しかし、「住宅取得等資金の贈与」は誰でも使えるわけではありません。この特例の適用を受けるための要件の中には、次のようなものがあります。
「贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること」
「対象となる住宅用の家屋は日本国内にあるものに限られる。」
つまり、たとえ国籍が日本にある場合でも、海外に住む子に住宅取得等資金の贈与制度を利用して財産を贈与することはできません。
■「相続時精算課税」は使えるのか
相続時精算課税とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする際、最大2,500万円までであれば贈与税が非課税になる制度です。一度に多額の贈与ができるため、住宅資金などを贈与する際によく利用されています。
「2,500万円もの財産を非課税で贈与できるなら、相続税の節税対策にもなるのではないか。」と思われる人も多いのですが、実は相続時精算課税は贈与税がかからない代わりに、相続税がかかる仕組みになっています。
例えば、80歳の祖父が25歳の孫に相続時精算課税を利用して2,000万円の贈与をしたとします。この場合、贈与税の非課税範囲内であるため贈与税はかかりませんが、祖父が亡くなったときに祖父の相続財産と贈与財産を合計した額で相続税を計算することになります。
大幅な節税対策は望めませんが、一般的に贈与税よりも相続税の方が高いとされていることから、本来の贈与の目的+節税対策として利用されるケースもあります。
では、海外に住む子へ住宅資金を贈与する際には、相続時精算課税を利用することができるのでしょうか。国税庁のHPに記載されている相続時精算課税の適用要件を見てみると、「適用対象者が日本に住んでいること」等の記載はされていません。
つまり、相続時精算課税は海外に住む子への住宅資金にも利用することが可能なのです。
ただし、この制度を利用して贈与を受ける場合には、「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書とともに税務署へ提出する必要があります。受贈者である子が海外にいる場合には、納税管理人を選任し、子どもの代わりに贈与税申告や「相続時精算課税選択届出書」の提出を行わなければなりません。納税管理人は税理士以外でも、日本にいる家族や知人を選任することが可能です。
■まとめ
今回は、海外に住む子に住宅資金の贈与をする場合の、贈与税制度の適用についてご説明しました。「住宅取得等資金の贈与」は日本国内の住宅に限られるため利用することはできませんが、「相続時精算課税」は利用することができます。
海外へ住む子へ贈与を行う場合は、あらかじめ特例の適用要件を把握しておくことが大切です。
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「贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること」
「対象となる住宅用の家屋は日本国内にあるものに限られる。」
つまり、たとえ国籍が日本にある場合でも、海外に住む子に住宅取得等資金の贈与制度を利用して財産を贈与することはできません。