[医院の相続1] 家族を守るバックアップ体制
1.保険(お金)だけで家族を守れるか?
自分に万一の事があった時に、お金が無ければ家族は守れないけれど、お金だけで家族の将来設計は守れるのでしょうか?
Mクリニック内科、先生が50歳という若さで癌で亡くなる。
家族は、奥様が元看護婦で、医院が順調になってからは専業主婦。
子どもは中学生の女の子が1人。
所有物件は、1階が医院、2階が住居の建物。他に賃貸マンション1室。
所持金は、借入金は無く、預金が少し。生命保険(死亡保険金)が奥様に1憶。
(相続税は1.6億まで税金がかからない配偶者特例を使っても2000万円ほどの支払い。)
医院は5年前に先生が亡くなったときのまま。
奥様と子どもは預金と賃貸マンションの収入で生活。
奥様は事務手続きが苦手で、病弱なこともあり、先生が亡くなった直後は相続手続きでご苦労された。
娘は医学部をめざして受験中。奥様の夢は医院の再興。
奥様が最近心配なのは、自分の健康。
万が一自分が亡くなったり、病気で判断能力が低下したらと、娘の将来が心配。
2.考えておくと安心な支援策
先生が万が一亡くなってしまうような事態になった時に、課題となるのは一般的に次のような項目です。
これらは保険(お金)でカバーできない専門家の支援領域です。
①医院を続けられるのかどうか?
医院に親族後継者がいて、医業を続けられるなら、ほとんどの問題が解決されます。
しかし、後継者が他人であったり、親族後継者であっても遺族と仲が悪い場合などは、遺された家族のために何らかの対策をしておく必要があります。
②医院を閉じる場合はどうするのか?
レントゲンや医療機械もそのままにしておけない。
借入金も返さないといけない。
リースの残債も払わなければならない。
考えればやることはわかるのですが、遺された家族の相続の問題と絡めて、
誰が指揮をとって進めますか?
これも遺された家族のために対策をしておく必要があります。
③先生の財産の相続手続きと借入金等負債の処理は誰が行うのか?
医院を個人で経営していれば、医療機器も相続財産ですし、それに付随するリースも相続人が負う債務になります。
また、亡くなった先生の個人の預金、有価証券、生命保険、不動産等の財産と借入金、リースなどの債務を調べて財産目録を作り、遺産分割のための相話し合いは誰が進めますか?
話し合いの中で、その後の家族の生活や相続税を見据えた提案は誰が行いますか?
さらに名義変更とその確認と相続人に承継された財産の管理上の注意点をアドバイスするのは誰が行いますか?
これらも遺された家族のために対策をしておく必要があります。
④家族の行く末を誰がどんな状態になるまで支援していくのか?
財産はその目的に沿って管理される必要があります。
預金も遺産をもらった本人の将来設計も、遺産を残す先生の想いもあるでしょう。
最低限、遺された家族のために必要な中長期的な支援が必要な場合があります。
これも遺された家族のために対策をしておく必要があります。
3.法律の形をした支援策
生命保険(お金)の他に、万が一の時に家族のためできる対策には次のようなものがあります。
①元気なうちに家族信託契約を結んでおく
家族信託は信託会社を使わずに、家族の中で信託契約を結んで、財産の管理や承継を行います。
先生が信託会社の代わりに家族信託契約を専門家と共に設計します。
設計は、先生とご家族が老後の生活も含めてプランニングする財産管理を中心に、先生に万が一の事があった場合のバックアッププランも含めて考えておきます。
遺言は亡くなった後に効力を発揮しますが、家族信託契約は生前から発効させられるのが特徴で、万が一先生が認知症のように判断能力が低下する病気になって財産管理ができなくなっても、先生に代わって家族が財産管理をすることができるのです。
<例>マンションの収益の分配
自分の母親と娘の生活のために、賃貸マンションを信託し、妻に預けて、自分で財産管理ができない状態になったり、亡くなった後も自分の考えた方法で信託契約(生活費の支給等)が実行されていく仕組みを作ります。
また、家族信託契約では遺言ではできない財産承継も可能です。
<例>医院の不動産の承継
医院の土地建物を家族信託契約で長男に預けて、自分の老後の生活拠点と賃料収入を確保し、自分が亡くなった後は妻がその権利を亡くなるまで享受できるようにする。
この方法は医院の親族経営者がいない場合にも応用できます。
また、この家族信託契約に、医院を廃業する場合の建物の改装や跡片付けについても盛り込んでおけば、先生に万が一の事があった時の跡片付けや改装をして、賃貸物件にすること、あるいは売却することまで先生の考えを実現させることができます。
さらに、家族信託は生前に先生が家族に財産を預けることになるので、名義変更等は先生が元気なうちに行われるので、万が一の時に事務処理に疎い遺族の方が騙されたり、煩雑な事務に困ることがないのです。
もちろん家族信託契約は先生が財産を預けるだけですから、預けるのをやめればいつでも元に戻せます。
家族信託にすべての財産を入れる必要はなく、遺言で分ける財産と全体の財産を分けて考えればよいのです。
家族信託は、相続と相続税に精通した専門家と設計することをお勧めいたします。
②元気なうちに遺言を書いておく
遺言は最もポピュラーな方法です。
家族信託契約を結んでおけば、生前の認知症対策から、亡くなった後の家族のための財産管理まで幅広くカバーができます。
しかし、すべての財産を目的がある信託契約に預けてしまうのも、財産の使い道に制約をつけることになるので窮屈になってしまいます。
信託契約は、ご自身の老後や遺された家族のための目的に沿った財産を契約して、元気なうちはご自分で自由に使える財産は残し、残った場合に遺言で配分する考え方をお勧めします。
遺言は、公正証書遺言の形で、家族信託契約や生命保険さらに相続税の支払を考慮しながら相続専門家と原案を検討すべきです。
相続専門家を遺言執行者に選任しておけば、遺されたご家族が相続手続きで煩わされる心配はありません。
③元気なうちに死後事務委任契約を結んでおく
遺言や家族信託ではできない手続きもあります。
下記の事項は、事務手続きに動けるご家族がいない場合には必要になる場合があります。
※家族信託契約がある場合には不要な手続きもあります。
【1】通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務
【2】菩提寺の選定、墓石建立に関する事務あるいは永代供養に関する事務
【3】入院していた病院の費用の支払い、医療費、電気、ガス等の停止
【4】老人ホーム等の施設利用料の支払いと入居一時金等の受領に関する事務
【5】家賃・地代・管理費等の支払いと敷金・保証金等の支払いに関する事務
【6】賃借建物明渡しに関する事務
【7】行政官庁等への諸届け事務
【8】上記各事務に関する費用の支払い
4.まとめ
今回書かせていただいた内容は、医院の相続、院長の終活の一部の内容です。
これらの項目は、一度策定すれば終わりではなく、毎年、相続対策、相続税節税対策と共にその内容を見直していく必要があります。
一般的に、これらの業務は、医業コンサルタント、会計事務所(顧問税理士)、相続専門税理士、相続専門行政書士等の複数の専門家のお仕事になります。
私どものグループでは、これらのご支援を医業承継安心プランとして、毎月の業務契約・年次契約に組み込んでご提供しています。
ぜひ一度ご相談ください。