「アパートを家族信託したいけれど、まだローンが残っている…」このような場合、銀行に相談せずに勝手に手続きを進めるのは危険です。最悪の場合、契約違反として残債の一括返済を求められる可能性があります。本記事では、住宅ローンやアパートローンが残っている不動産を家族信託する際の注意点と、銀行との上手な交渉方法について、わかりやすく解説します。
抵当権付き不動産の、家族信託における銀行同意の重要性
ローンが残っている不動産を家族信託する場合、銀行に黙って信託手続きを行うことはできません。家族信託で勝手に不動産の名義変更をすると、銀行との契約に違反することになります。銀行の同意を得ながら家族信託を進めるポイントをお伝えします。
認知症などでアパート経営に支障が出ないように、家族信託を活用することは良い方法です。その際、アパートの「修繕」「建替え」「売却」などを受託者(財産を管理する人)が行えるように契約しておくと安心です。ここでは、信託する財産が銀行からの借入や担保が付いているアパートの場合、銀行への説明や承認を得るための対応について詳しく説明します。
なぜアパートの大規模修繕で資金が借りられなくなるのか
賃貸不動産を所有している方にとって、建物の老朽化に伴う修繕費や建替えの問題は避けて通れません。小規模な修繕であれば家賃収入を貯めて対応できますが、大規模修繕となると金融機関からの融資を避けられないケースがあります。
そんな大規模修繕の時期に、オーナーが認知症になっていたらどうでしょうか。預金は凍結され、金融機関からの新たな融資を受けることは絶望的になります。オーナー本人にとって、将来借入ができなくなってしまう可能性は大きな悩みとなるのです。
成年後見制度では融資は難しい
預金の凍結解除には成年後見制度を使う方法もあります。しかし、成年後見制度は財産を守ることが目的で、家庭裁判所の厳格な管理下に置かれます。そのため、新たに融資を受けることや保証人を立てることは相当困難と考えられます。
家族信託なら融資が可能?実は複雑な問題
家族信託を使えば、信託契約書に「受託者が融資を受けられる」という条項を入れることは可能です。しかし、「契約書で融資を受けられると書いてある」ことと、「実際に金融機関が融資してくれる」ことは全く別の問題なのです。
家族信託での融資が難しい理由
せっかく公正証書で家族信託契約書を作成して銀行に持ち込んでも、融資を受けるのは普通の融資よりもハードルが高いのが現実です。2025年現在でも、家族信託に対応できる金融機関や実務の取り扱いはまだ少なく、不透明な部分が多いのが現状です。
問題1:お金を借りる人と返す人が違ってしまう
例えば、アパートに5000万円のローンが残っているとします。この借金は父親が銀行と契約を結んで借りたものです。家族信託を結んだ後は、アパートの所有者は息子(受託者)になりますが、借金の債務者は依然として父親のままです。家族信託により、アパートの家賃収入は息子名義の口座に振り込まれるようになります。
つまり、息子名義の口座に入った家賃収入で、父親個人の借金を返済することになります。この複雑な関係を、融資した銀行が正式に認めてくれるでしょうか?多くの場合、答えは「NO」です。そのため、アパートに抵当権を設定している金融機関に、債務者の名義変更(父親から息子へ)の承諾をしてもらう必要があります。家族信託で銀行から融資を受けるには、受託者の名前で融資を受けることが必要なのです。
問題2:受託者に融資を返済する能力はあるのか
父親の借金を息子(受託者)の名前に変更してもらうには、金融機関による再審査が必要です。父親と息子では信用力が異なるため、息子の返済能力を改めて審査することになります。父親がアパート以外にも財産を持っていたとしても、息子に他の財産がなければ、金融機関は息子への融資をより厳格に審査します。将来の大規模修繕時の融資についても同様です。
さらに、信託法では受託者に重い責任が課せられています。信託で発生した債務を、受託者が個人の財産からも返済しなければならない可能性があります。例えば、息子がアパートの改装に失敗して経営が行き詰まった場合、息子の個人財産で信託の債務を返済する必要が生じる可能性があります。
また、信託の運営が困難になった時に息子が死亡してしまった場合、次の受託者が債務を引き継ぐか、誰も引き継がなければ息子の相続人に債務が請求されることになります。金融機関は、このような将来のリスクも考慮して融資審査を行います。
問題3:家族信託契約書の内容が銀行にとって都合が悪い
家族信託契約書には、金融機関にとって融資を渋る要因となる条項が含まれていることがあります。
受託者を勝手に変更できる条項
例:第一受託者が資産を持つ長男、第二受託者がフリーターの次男
債務者である第一受託者が金融機関に相談なく辞任できる契約になっている場合、金融機関としては困ります。
後任受託者が決まらない場合への配慮不足
受託者が辞任や死亡した時に、後任受託者が決まらなければ返済が滞る可能性があるのに、金融機関が受託者選任に関与できない契約になっている場合があります。
信託の分割・併合が自由にできる
当初の融資条件と変わってしまう信託の分割や併合が、金融機関の同意なくできる契約になっている場合があります。
信託内容の変更が自由にできる
委託者と受託者だけで信託内容を変更でき、金融機関の同意が不要な契約になっている場合があります。
生活費の支払い限度額がない
賃貸物件の融資返済分や修繕積立金を残さず、すべて生活費として支給できる契約になっている場合があります。
新たな借入を自由にできる
既存の借入がある状態で、金融機関の同意なく新しい借入ができる契約になっている場合があります。
信託内借入と信託外借入の違い
2025年現在、家族信託を利用した借入方法には「信託内借入」と「信託外借入」の2つの方法があります。
信託内借入とは
受託者が信託契約で定められた権限に基づいて融資を受ける方法です。借入金は信託財産に含まれ、受託者が借入から建物の建設、返済まで一括で行えるメリットがあります。ただし、委託者が亡くなった時の債務承継について、法的に不明確な部分があります。
信託外借入とは
家族信託の契約とは別に、委託者個人が金融機関から借入を行う方法です。借入金は信託財産には含まれず、相続が発生した時には通常の債務として法定相続されます。手続きは煩雑になりますが、相続時の取り扱いが明確というメリットがあります。
まとめ
家族信託契約書に「受託者が金融機関から借入できる」という条項を入れることは簡単です。しかし、実際に融資を受けるためには、信託契約の準備段階から金融機関と十分な相談が必要となります。家族信託の計画がストップしないよう、各ご家庭に合った対策と工夫が必要です。
2025年現在でも、金融機関によっては家族信託への理解がまだ十分でないことが多いのが現状です。一部の大手銀行や地方銀行では信託口口座の開設や家族信託による融資に対応していますが、すべての金融機関で対応可能というわけではありません。ローン(抵当権)が付いている不動産を家族信託する場合は、必ず事前に金融機関に相談し、同意を得ることが重要です。勝手に信託手続きを行うと契約違反として一括返済を求められる可能性もあります。
家族信託については、実践的な知識を持つ専門家を交えて金融機関と交渉する必要があります。抵当権付き不動産の家族信託や金融機関との交渉でお困りの際は、豊富な実務経験を持つソレイユ相続相談室までお気軽にご相談ください。専門的なアドバイスで、ご家族に最適な解決策をご提案いたします。
監修者

宮澤 博
税理士・行政書士
税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士
長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、 お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、 他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。