遺産分割協議が成立する前に相続人が亡くなってしまうと、相続の流れが複雑になります。この記事では、そのような場合の相続分の行方や手続きの方法、注意点について分かりやすく解説します。
遺産分割中に相続人が亡くなった場合の相続分
【事例】
相談者は数ヶ月前に夫のAさんを亡くし、Aさんの相続手続きを行っているところです。Aさん夫婦には子どもがおらず、両親もすでに亡くなっているため、Aさんの相続人は配偶者である相談者と姉Cさんと兄Dさんとなります。しかし、Aさんの兄弟姉妹と遺産をどうするかの話し合いができないうちに、兄のDさんが事故で亡くなってしまいました。Dさんには配偶者のEさんと、子どものFさんがいます。
このような場合、遺産分割中に亡くなったDさんの権利は、Dさんの相続人であるEさん、Fさんが相続することになります。そのため、Aさんの遺産分割協議にはEさん、Fさんが参加しなければなりません。
なお、こうした状況ではAさんの相続を「一次相続」、Dさんの相続を「二次相続」といいます。
例えば、一次相続でAさんが8,000万円の財産を残して亡くなった場合、Aさんの遺産を法定相続分で分けたとすると、それぞれの相続分は以下のとおりです。
- 配偶者(相談者):4,000万円(2分の1)
- 姉 Cさん:2,000万円(4分の1)
- 兄 Dさん:2,000万円(4分の1)
ここで、Dさんが亡くなり二次相続が発生すると、DさんがAさんから相続する予定だった2,000万円に加えて、Dさん自身の遺産も相続財産となります。Dさん自身の遺産が5,000万円あったとすると、Dさんの法定相続分は以下のとおりになります。
- 配偶者Eさん:3,500万円(2分の1×7,000万円)
- 子どもFさん:3,500万円(2分の1×7,000万円)
遺産分割中に相続人が亡くなった場合の遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、「誰が、何を、どのくらい相続するか」について相続人同士で話し合った内容を記載した書面のことです。預金や不動産の名義変更や相続税申告などの手続きで提出が必要になるほか、相続人との間での証明にもなります。そのため、遺産分割協議書には「内容に合意します」という意味で相続人全員が署名・押印をする必要があります。相続人のうちの1人でも署名・押印が欠けていると、遺産分割協議書は無効となってしまいますので注意が必要です。
今回の例では、亡くなった相続人Dさんの代わりに、配偶者のEさんと子どものFさんが一次相続の遺産分割協議に参加し、財産を受け取ることになりますので、EさんとFさんの署名・押印が必要になります。
遺産分割中に相続人が亡くなった場合の注意点
遺産分割中に相続人が亡くなると、その人の相続人も遺産分割協議に参加することになるため、普段はあまり交流のない人と話し合いをしなければならない可能性があります。遠方に住んでいるなどで交流のない相続人にさらに相続が開始してしまった場合は、権利承継人が増え、遺産分割協議の成立や印鑑登録証明書の取得依頼が難しくなる場合もあります。
また、銀行や不動産の名義変更の手続きには、民法上期限が定められていません(ただし、相続税の申告は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります)。そのため、名義変更手続きを先延ばしにしてしまうケースも多いのですが、その間にさらに次の相続が開始してしまい、権利承継人や代襲相続人等の利害関係人が増えることがあります。その場合、それらの関係者全員から署名・押印をもらわなければならなくなりますので、できるだけ速やかに手続きを進めるようにしましょう。
まとめ
遺産分割中に相続人が亡くなってしまった場合、その相続人の権利は相続人の相続人(権利承継人)に引き継がれます。そのため、遺産分割協議には権利承継人も参加することになり、手続きがより複雑になる可能性があります。手続きを円滑に進めるためには、できるだけ早く遺産分割協議を行い、必要な名義変更などの手続きを完了させることが重要です。相続人の確定そのものが複雑でわかりにくい場合には、税理士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。