「実家に山があるらしいけど、どこにあるのか分からない」「何の木が植えられているか調べたい」といった相談が少なくありません。森林は登記情報や地番だけでは把握が難しく、境界や所有者の確認も容易ではないのが実情です。本記事では、長野県林務部 森林政策課 森林計画係への取材をもとに、森林の現況を把握するための具体的な手順と注意点を解説します。
林務部への相談から始める森林の確認手順
1. 森林の場所を知りたいとき、どこに相談する?
まずは、所有していると思われる森林のある都道府県の林務部(または同様の部局)に相談しましょう。名称は自治体により異なる場合がありますが、多くの都道府県では森林に関する窓口を設けています。 林務部では、「森林簿」や「森林計画図」といった資料を取得することが可能です。これらは森林法(第10条の7など)に基づき、森林管理や保護施策のために作成されている行政資料です。
2. 森林簿とは?活用のポイントと注意点
森林簿・森林計画図の概要
森林簿は、森林の区画、所有者情報、樹種などを記載した資料で、森林計画図はおおよその位置や区画を5,000分の1程度の縮尺で示した地図です。これらにより、森林の位置や所有関係を大まかに把握できます。
情報の精度に注意
長野県の場合、図面はおよそ30年前、所有者情報は40年前のものを基にしており、法務局の地番や公図と一致しないこともあります。また、市町村の固定資産台帳は個人情報保護の観点から、現在は容易に取得できません。 そのため、森林簿や計画図は参考資料としての位置づけにとどまり、正確な境界確定には土地家屋調査士等による測量が必要です。
3.森林簿の取得方法と費用
都道府県によって異なりますが、以下のような手順が一般的です。
- 所有者を証明できる書類(登記簿謄本など)を用意する
- 所定の申請書を提出する
- 長野県では電子データ(CD-RやUSB)で提供可能
郵送での対応が可能な場合もあり(要事前確認) なお、所有者情報が古く、該当する森林のデータがないこともあるため、事前に問い合わせて確認することをお勧めします。
4. 境界や隣接地所有者の把握は難しい現実
森林には明確な境界標がないケースが大半で、「どこからどこまでが自分の山林か」は、森林簿だけでは判断できません。また、隣接地の所有者が誰なのかも、簡単には特定できないことがあります。 そのため、例えば「隣の人に無償で譲りたい」と思っても、その相手を見つけるのが困難な場合もあります。
5. 森林所有者届出制度について(法的根拠)
平成24年の森林法改正(第10条の7)により、森林の土地を取得した際には市町村への届出が義務化されました。これにより、徐々に所有者情報の整備が進んでいます。
【参考】森林法第10条の7 森林の土地を新たに取得した者は、取得後90日以内に市町村長へ所有者届出を行う義務があります(個人・法人とも対象)。
6. 林務部と森林組合の役割の違い
森林に関する相談先として林務部と森林組合がありますが、それぞれ役割が異なります。両者を適切に活用することで、より効果的に森林の情報を得ることができます。
林務部(行政機関)の役割
- 森林行政の実施、法令に基づく森林管理
- 森林簿・森林計画図などの公的資料の管理・提供
- 許認可や届出の受理、指導
森林組合(民間組織)の役割
- 地域の森林や樹木に関する実務的な知識の提供
- 組合員の森林については詳細な情報や施業履歴を保有
- 現地調査による樹種特定や森林状態の確認
森林の場所や情報を知りたい場合は林務部へ、実際の森林管理や施業については森林組合へ相談するのが適切です。森林組合は地域に密着した活動を行っているため、具体的な現地作業や林業経営の相談に強みがあります。両者を併用することで、より確実に森林の情報を把握できるでしょう。
まとめ
まずは林務部へ相談し、森林簿を確認
森林の把握には限界もありますが、手がかりとなる情報を得るためには、まず各都道府県の林務部に相談しましょう。取得方法や対応は自治体によって異なるため、事前の確認が重要です。境界や所有者の確定が必要な場合は、専門家(司法書士・土地家屋調査士等)への相談も検討しましょう。実際の森林管理や施業については、地域の森林組合に相談することで具体的なサポートを受けられます。