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相続預金の払戻し制度の仕組みと利用方法について

相続預金の払戻し制度をご存知でしょうか?
この制度は、遺産分割が終了する前に、相続の対象となっている預金口座のお金を一定額まで相続人単独で払い戻すことができる制度になります。
当面の生活費や葬儀の費用などを確保する目的で、誰しもが今後利用する機会があるかもしれない制度です。
この記事では、相続預金の払戻し制度ができた背景や、その仕組み、実際に利用する際に必要となる書類などを、具体的な事例を交えながら紹介しています。

 

 (目次)

1. 相続預金の払戻し制度とは

 1-1 相続預金の払戻し制度の概要

 1-2 相続預金の払戻し制度ができた背景

2. 相続預金の払戻し制度を実際に利用するとどうなる?

 2-1 二種類の相続預金の払戻し制度

 2-2 相続預金の払戻し制度によって払い戻せる金額

 2-3 相続預金の払戻し制度を利用する際の注意点

3. 払い戻された預金の扱いはどうなる?

4. 払戻しに必要な書類は?

5. まとめ

 


 相続預金の払戻し制度とは

 

1-1 相続預金の払戻し制度の概要

そもそも、相続預金の払戻し制度とはどういうものか確認していきましょう。

通常、口座の名義人が亡くなると、口座は凍結され、預金を払い戻すことはできなくなります。

これは、被相続人が亡くなった瞬間から相続が発生し、相続財産を確定させてしまう必要があるからです。また、口座を凍結することで、死後に引き出されるはずのない預金の引き出しが起こる等のトラブルを未然に防止することができるのです。

 

しかし、全く預金を払い戻すことができないとなると、たとえば被相続人から扶養を受けていた相続人が当面の生活費を確保できなくなってしまったり、葬儀費用の支払いができなくなってしまったりします。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度は、相続預金のうちの一定額について、取引金融機関の窓口で、共同相続人が単独で払戻しを受けることができるものです。

 

この制度により、各相続人は遺産分割の前に、当面必要な資金を確保することができるのです。

 

 

1-2 相続預金の払戻し制度ができた背景

このような制度ができた背景には、平成28年12月19日の最高裁大法廷の決定があります。

これはどういうことか、順を追って説明していきたいと思います。

当初、預貯金債権は、一般債権同様に、法律上当然に分割され、相続人が法定相続分に応じて承継されるものと考えられてきました。

つまり、遺産分割の対象にはあたらないと解されていたのです。

 

しかし、平成28年12月19日の最高裁大法廷の決定で、相続された預貯金債券は遺産分割の対象に含まれることとなりました。

これにより、口座名義人が亡くなった場合、その預金は当然に法定相続分に応じて分割されるのではなく、遺産分割の対象となってしまい、遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では当該口座の預金の払戻しを受けることはできなくなってしまいました。

 

そうなると、遺産分割が終了する前の段階で、各相続人が当面の生活費を確保したいときや、葬儀費用の支払いのためにお金が必要になった際にも、共同相続人全員の同意がなければ預金の払戻しができないということになってしまいます。

 

このような問題が生じたことから、各相続人が生活費や葬儀費用の支払いのために資金が必要となった場合に対応できるよう、相続預金の一部払戻し制度の新設へとつながっていったのです。

 

この相続預金の払戻し制度の新設を含む「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」は、平成30年7月13日に公布され、令和元年7月1日に施行されました。

 

 

 

2 相続預金の払戻し制度を実際に利用するとどうなる?

2-1 二種類の相続預金の払戻し制度

相続預金の払戻しの制度は、2種類に分かれます。

「家庭裁判所の判断により払戻しができる制度」と「家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度」の2つです。

 

前者の「家庭裁判所の判断により払戻しができる制度」は、家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申し立てられている場合に利用することのできる制度になります。

相続預金の払戻しを求める申立てを行い、その許可の審判を得た場合に、相続預金を払い戻すことができます。

 

ただし、払戻しの審判を得ることができるのは、生活が困窮している等その必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害しないような場合に限られます。

遺産分割の事件が家庭裁判所に係っていて、かつ払戻しの審判を得ることのできるようなケースはそう多くないでしょう。

実際に頻繁に利用されることが想定されるのは、後者の「家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度」だと思われます。

したがって、こちらの制度を中心に詳しく解説していきたいと思います。

 

 

2-2 相続預金の払戻し制度によって払い戻せる金額

相続預金の払戻しを希望する相続人は、以下の範囲で金融機関から払戻しを受けることができます。

 

①口座ごと(定期預金の場合は明細ごと)に、相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分

②同一の金融機関(複数の支店に相続預金がある場合にはその全支店)からの払戻しは150万円が上限

 

 

これだけでは少しわかりづらいので、具体的な事例にあてはめて考えてみましょう。

 

たとえば、相続人が長男と二男、長女の3人いた場合を想定してみます。

相続開始時の預金額が900万円で、これはすべてA銀行の普通預金口座に入っていたとします。

すると、長男が払戻しを受けることができるのはいくらでしょうか。

 

①の式に当てはめると、

900万円×1/3×1/3=100万円

となります。

これは②で上限とされている150万円を超えていないので、そのまま払戻しを受けることができることになります。

 

もう少し複雑なケースも考えてみましょう。

相続人は、妻と長男と二男の3人です。この場合、法定相続分は妻が1/2、長男と二男が1/4ずつになります。

相続開始時の預金額が2700万円だとして、A銀行の普通預金が600万円、定期預金が1800万円、B銀行は普通預金が300万円と金融機関が分かれています。

この場合に、長男が払戻しを受けることができるのはいくらになるでしょうか。

 

まず、それぞれの預金ごとに①の計算をしてみましょう。

A銀行の普通預金口座600万円×1/3×1/4=50万円

A銀行の定期預金口座1800万円×1/3×1/4=150万円

B銀行の普通預金口座300万円×1/3×1/4=25万円

 

これを単純に合計すると225万円ですが、②の条件を踏まえると、A銀行だけで合計200万円と、上限である150万円を超えてしまっています。

したがって、A銀行から払い戻すことができるのは上限額の150万円となります。

 

金融機関の異なるB銀行の普通預金口座の25万円はそのまま払い戻すことができるので、合計175万円が長男の払戻しを受けることができる金額になります。

 

 

2-3 相続預金の払戻し制度を利用する際の注意点

ここまで、「家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度」の仕組みについて説明してきました。

では、金融機関の窓口で払戻しの手続を行えば、すぐに上記の計算結果のとおりの金額を手にすることができるのでしょうか。実際に、すぐに必要な資金の充てにできる制度なのかが気になるところだと思います。

 

実は、この制度を利用しようと思い立ったとき、金融機関に行けばすぐにお金を受け取れるというわけではないのです。

どういうことかというと、まず手続に必要な書類を集めるのに時間がかかります。

必要な書類について詳しくは後に解説しますが、必要な戸籍謄本等を集めるのは、決して楽ではありません。場合によってはそれだけで1か月程度の期間がかかってしまうことも考えられます。

また、必要な書類を集めても、実際に現金が払い戻されるまでにはやはり時間がかかります。

 

全国銀行協会の発行するリーフレットによると、「書類を頂いた後、相続預金の払戻しまでには、内容の確認等のため一定の時間を要します。」とあり、具体的な期間は明記されていないものの、すぐに払戻しを受けることは難しいということがわかります。

 

当然、相続預金というものの性質上、誤って払い戻されてしまうと後々の遺産分割に重大な影響を及ぼしてしまうことから、仕方がないといえますが、葬儀費用に充てるといった事情のためにこの制度を利用する場合には、事前に口座のある金融機関にどのくらいの期間を要するか問い合わせておいた方がいいでしょう。

 

 

 

3 払い戻された預金の扱いはどうなる?

では、この相続預金の払戻しの制度によって払い戻された預金は、その後どのように扱われるのでしょうか。

 

これは、遺産分割前の払戻しということで、遺産分割協議で話し合われることになります。

原則として払い戻された預金については、後日の遺産分割において、払戻しを受けた相続人が取得したものとして、調整が図られることになるのです。

 

これはどういうことか、先ほどの妻と長男と二男が相続人となっていたケースを例として考えてみたいと思います。

 

相続開始時の預金額が2700万円であり、払戻しの制度を利用して長男が生活費として175万円を払い戻した後の遺産分割というケースになります。

 

遺産分割は、法定相続分どおり、妻が1/2、長男と二男が1/4ずつということで協議が成立したとしましょう。遺産分割の協議が成立した時点では、2700万円から175万円が引かれた2525万円の預金が口座にある状態になります(実際には遺産分割等の手続に費用を要することが考えられますが、今回は考慮しておりません。)。

 

この預金について共同相続人間で分割するとします。残高の2525万円を上記法定相続分のとおり分割すると考えてしまいそうですが、それでは長男が先に払い戻した175万円分、得をしてしまい、不公平ですよね。

 

このケースでは、相続開始時の預金額2700万円を法定相続分のとおり分割して、妻が1/2の1350万円、長男と二男が1/4の675万円ずつ取得するとした上で、長男が取得することになった675万円から、既に払い戻されている175万円を差し引きます。すると、遺産分割において長男が実際に取得する金額は500万円ということになります。

 

このように、相続預金の払戻しの制度によって、相続人間に不公平が起こらないように調整されるのです。

 

 

 

4 払戻しに必要な書類は?

相続預金の払戻しの制度については理解していただけたでしょうか。

では、実際にこの制度を利用したいと思ったときにどのような書類が必要となるのかを説明していきたいと思います。

説明にあたっては、「家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度」を利用する場合を想定していただければ問題ありません。

仮に「家庭裁判所の判断により払戻しができる制度」を利用したいという場合は、実際に審判や調停が申し立てられている家庭裁判所に問い合わせた方がよいでしょう。

 

制度の利用にあたって、必要となる書類は、以下のとおりとなります。

 

・本人確認書類(免許証等)

・被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本、または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)

・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書

・相続預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書

・(相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合)被相続人の両親の除籍謄本、戸籍謄本、または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)

 

 

以上で挙げたものに加えて、相続人が被相続人の孫であったり兄弟姉妹の子供、つまり甥や姪であったりする場合には、追加の戸籍謄本が必要になることが考えられます。

 

また、上記の戸籍謄本等に代えて、「法定相続情報一覧図の写し」というものの原本を提出することで足りる場合もあります。

ただし、「法定相続情報一覧図」を法務局で作成するためには、上記の戸籍謄本等が必要となりますので、一度は戸籍を集めていただく必要があるのです。

 

金融機関により必要となる書類が異なることもあるため、あらかじめ被相続人の口座がある金融機関に問い合わせた方がよいでしょう。たとえば、戸籍謄本等については発行から1年以内のものというように、期間の制限があることも多いです。

 

参考記事はこちら👇

相続手続きの新制度 法定相続情報証明制度

 

 

 

5 まとめ

以上、遺産分割前の相続預金の払戻し制度について説明いたしました。

 

今回、こちらの記事をお読みいただいて、制度の仕組みや利用方法については、概ね理解していただけたのではないでしょうか。

ただ、実際に制度を利用することになった際には、具体的な事案に応じて新たな疑問や不安が生じてくるかもしれません。

 

そのようなとき、相談できる人が身近にいればよいのですが、相続預金の払戻しの制度は平成30年に新設された制度ということもあり、まだ広く周知されているとはいえない状況です。周囲にも、一度でもこの制度を利用したことがあるという人はまだ少ないのではないでしょうか。

 

相談できる人が身近にいないときは、ためらわずに専門家に相談してみましょう。

 

 

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