作成日/2021年10月22日 更新日/2022年1月21日

ある家族の事例より

Aさんにはもうすぐ80歳になる父と、結婚して遠方に住んでいる妹がいます。

母は10年前に他界しており、今は父名義の自宅に父とAさんの2人で暮らしています。

父は父名義の預金1,000万円の中から生活費や医療費を出しているようですが、最近物忘れが多くなり、認知症の心配が出てきました。

Aさんは、認知症になると預金口座が凍結され、自由にお金を引き出せなくなることを知っていたので、「家族信託」を活用して父の財産の管理を自分が行うことを検討し始めています。

そこで、近くの〇〇銀行で家族信託用の銀行口座を作りたいと相談したところ、「この銀行では家族信託専用の口座を取り扱っていない」と言われてしまいました。

家族信託専用の通帳を作りたいAさんは、家族信託に詳しい専門家に相談することにしました。

専門家 …… 「信託法によると、受託者には通常の財産と信託財産を分別して管理する義務があるとされています。ですから、受託者(Aさん)名義の預金通帳を作成して、その通帳を家族信託専用の通帳としてご自分のお金と区分して利用しても、通帳の作成についての問題はありません。しかし…..この方法では、後々受託者の管理責任となるトラブルが発生する可能性があるのです。

信託財産のみの入出金に使うようにした通帳であれば、通常の預金通帳を家族信託用の通帳とすることができます。しかし、この方法では後々トラブルが発生してしまう可能性があるようです。

通常の預金通帳で信託財産を管理する際のトラブルとは、どのようなものでしょうか?

まずは、今回の信託契約について確認しておきましょう。

【信託契約案】

・信託財産=Aさん名義の自宅と預金1,000万円

・委託者=父

※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。

・第1受託者=Aさん、第2受託者=Aさんの妹

※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。

信託財産は受託者の名義に変更され、自宅と預金の管理は受託者が行うことになります。

第1受託者は初めに受託者となる人のことで、第2受託者とはAさんに万が一のことがあった場合に受託者となる人のことです。今回の場合は、第2受託者をAさんの妹に設定しました。

・受益者=父

※受益者とは、信託財産によって利益を受ける人のことです。

今回の場合は、自宅に住む権利のほか、預金の中から生活費、医療費、介護費用の支払いを受ける権利が受益者のものとなります。

・信託の目的=自宅の管理、受託者の老後の生活費、医療費、介護費用等の管理

今回の例では、Aさん名義の自宅と預金1,000万円の預金を信託財産としてAさんに預けることになります。

父は、Aさんに財産の管理を任せながら自宅に住み続け、生活費等の支払いを受けることができるのです。

家族信託をすると、信託財産は受託者の名義に変更されます。これは、父名義のままAさんが預金を管理すると、父が認知症になったときに口座が凍結され、預金を一切引き出せなくなってしまうからです。

Aさんは自分名義に変更された信託財産を父のために管理することになりますが、信託財産である父の預金をAさん個人の財産と同じ通帳で管理することは、信託財産の独立性を確保する観点からやってはいけない行為です。

ですから、今回の場合は、信託財産である父の預金を分けて管理するために、受託者(Aさん)名義の家族信託専用の口座を作成する必要があるのです。

しかし、今のところ家族信託に対応している金融機関は少なく、家族信託専用の口座を取り扱っていないことが多いのが現状です。

信託法上、「受託者には信託財産を他の財産と分けて管理する義務がある」とされています。

そのため、極端に言うと、受託者のAさんが個人名義の口座を開設し、その通帳にペンで「家族信託専用口座(委託者=父、受託者=Aさん)」と書いて、そこで信託財産を管理することも通帳を作る上では問題ないとされています。

しかし、この方法では後々トラブルが発生してしまう可能性があるのです。

受託者個人の名義で家族信託専用の口座を作ると…

家族信託の専用口座を取り扱っていない金融機関で口座を開設し、受託者個人の名義で家族信託専用口座を作成しようとすると、どのようなトラブルが起こるのでしょうか?

受託者が死亡したときに口座が凍結されてしまう

受託者個人の名義で家族信託用の口座を作成したときに最も困るのが、「受託者に相続が発生したとき」です。

受託者が死亡すると受託者名義の財産は相続財産となり、預金口座は凍結されて引き落とし等ができない状態になってしまいます。

もし、金融機関が取り扱っている家族信託専用の口座である場合には、受託者が死亡した場合でも信託口座は相続財産にならず、次の受託者(第2受託者)への名義変更手続きをするだけで滞りなく生活費等の引き落としができます。

しかし、受託者個人の名義で家族信託用の口座を作成した場合、金融機関では受託者の住所と氏名、印鑑登録をもって口座を開設しているわけですから、受託者個人の口座として相続財産と同じ扱いになってしまうのです。そのため、受託者が死亡した場合は信託口座が凍結され、相続手続きをしないと口座名義人を第二受託者の妹に変更することができなくなります。

そもそも、この口座で管理していた預金は、受託者Aさんの相続財産ではありませんので、銀行や税務署に要らぬ説明をしなければならない可能性が出てきます。

さらに、信託法では信託財産は差し押さえの対象にならないことになっていますが、受託者個人名義の口座は差し押さえられてしまうので、要らぬ説明をして差し押さえを解除してもらう必要がでてきます。

このように、受託者個人の名義で家族信託用の口座を開設すると、受託者に万が一のことがあった場合にトラブルが発生してしまいます。現在、家族信託専用の口座を取り扱っている金融機関は増えてきていますが、まだまだ少ないのが現状です。

しかし、将来のことを考えると、家族信託に対応している金融機関で専用の口座を開設する方が良いでしょう。

家族信託専用口座を開設するためには、公正証書で作成された信託契約書の提出が必須となります。

公正証書でない場合は、専用口座を開設できない可能性がありますので、ご注意ください。

そもそも、同じ金融機関で同一人で2つの口座を作れない金融機関もあります。

例えば、受託者がもともと〇〇銀行に口座を持っている場合、新たに〇〇銀行で家族信託用に口座を開設しようとしても、できない可能性があります。

これは、金融機関によって規定が異なりますので、作成する際はあらかじめ対象の金融機関にお問い合わせください。

家族信託専用の口座を取り扱っている金融機関一覧(2021年8月現在)

【北海道・東北地方】秋田銀行仙台銀行七十七銀行山形銀行
【関東地方】京葉銀行オリックス銀行埼玉懸信用金庫さわやか銀行
かながわ銀行横浜信用金庫芝信用金庫城南信用金庫
常陽銀行巣鴨信用金庫西武信用金庫世田谷信用金庫
千葉銀行千葉興業銀行東和銀行栃木銀行
みずほ信託銀行三井住友信託銀行武蔵野銀行共和証券
大和証券野村證券楽天証券
【中部地方】北國銀行北陸銀行十六銀行八十二銀行
長野銀行福井銀行
【近畿地方】池田泉州銀行紀陽銀行紀陽銀行第三銀行
百五銀行福井銀行三重銀行京都銀行
京都信用金庫
【中国・四国地方】四国銀行中国銀行広島銀行広島信用金庫
もみじ銀行山口銀行百十四銀行
【九州地方】福岡銀行肥後銀行宮崎銀行沖縄銀行
琉球銀行

まとめ

家族信託の通帳は他の財産と分けて管理することができれば、受託者個人の名義で作成した通帳を使ったとしても、家族信託用通帳作成は可能です。

しかし、受託者に万が一のことがあった場合、口座が凍結されで生活費等の支払いを受けることができなくなってしまいます。

家族信託を活用する際は将来のことを考え、家族信託に対応している金融機関で専用の口座を開設しましょう。

ソレイユ財産管理では、豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたの家族の事情ににあった家族信託のご提案を行っております。

家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。