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「家族信託を利用したいが、全財産を預けるのは不安だ」

このような悩みを抱えている方もいらっしゃるかと思います。

例えば、家族信託で全財産を子どもに預けてしまうと、預金を引き出したくてもその都度子どもにお願いして預金を引き出してもらわなければならず、自由にお金を使うことが難しくなってしまいます。

「できれば自分が元気なうちは自由に使えるお金を残しておいて、それ以外の財産を信託したい」と考えるのが普通です。

では、そもそも家族信託で一部の財産のみを信託することは可能なのでしょうか?

今回は、Aさんの相談事例をもとに、一部の財産から信託をスタートする方法を解説していきます。

【相談事例】

Aさんは、Aさん名義の自宅と3,000万円の預金を所有しており、賃貸不動産も2棟経営しています。

Aさんの妻は3年前に亡くなっており、自宅にはAさんと息子、息子の嫁、孫2人の5人で住んでいます。

Aさんには30歳になる娘もおりますが、結婚をして実家から離れた場所で暮らしています。

Aさんは年齢的に賃貸不動産の管理が難しくなってきたことや、賃貸不動産の経営を息子に継がせたいこともあり、「家族信託」という方法を利用して賃貸不動産を息子に管理してもらおうと考えています。

しかし、家族信託について息子と相談しているときに、

「家族信託をする際は全財産を信託しなければならないのか?」という疑問が湧いてきました。

初めから全財産を息子に預けるのは不安があるし、信託により財産の名義が息子に変更されると、預金を引き出したいときは息子にその都度話さなければならず、自分の意思だけで預金を引き出すことができなくなってしまうからです。

Aさんは、遠くに住んでいる娘に子どもができたら、出産祝いや教育費用を贈与したいと考えており、それについて息子に話すのは気が進みません。

できれば自分が元気なうちは、自分の意思で自由に使える預金を残しておきたいと考えています。

Aさんが家族信託の専門家に相談したところ、専門家は次のように回答してくれました。

Aさん

「家族信託では全財産を信託する必要があるのですか?」

専門家

全財産を信託する必要はありません。信託する財産は財産を預ける人の意思によって決めることができます。そもそも家族信託には信託できない財産や、信託が難しい財産もあります。

今回、専門家が提案した信託契約案は以下のとおりです。

【信託契約案】

・信託財産=Aさん名義の自宅、賃貸不動産2棟、預金2,000万円

・委託者=Aさん

※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。

・受託者=息子

※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。信託財産は受託者の名義に変更されます。

・受益者=Aさん

※受益者とは、信託財産によって利益を受ける人のことです。

今回の信託契約では自宅に住む権利のほか、生活費、医療費、介護費用の支払いを受ける権利が受益者のものとなります。

・信託目的=Aさんの老後の資金確保、賃貸不動産の管理

今回の事例では、Aさん名義の自宅と預金2,000万円、賃貸不動産2棟を息子に預ける信託契約を結びました。受益者であるAさんは、息子に財産の管理や賃貸不動産の経営を任せながら、亡くなるまで自宅に住み続け、生活費等の支払いを受けることができます。

また、息子としては賃貸不動産の経営ノウハウを父に教わりながら、円滑に経営を引き継ぐことができます。

家族信託をすると、信託財産は受託者である息子の名義に変更されます。

これは、Aさん名義のまま財産を管理すると、もしAさんが認知症になってしまったときに、預金の引き出しや不動産の売却・大規模修繕ができなくなってしまうからです。

Aさんがお金を使う時は、受託者である息子にお願いをして預金を引き出してもらう必要があります。

自分が何にお金を使うかを息子に知られるわけですから、Aさんが娘に子どもができたときに出産祝いや教育資金の贈与を行いたいと思い息子に話をすると、息子が「老後のためにお金を取っておいた方が良い」と贈与を反対してくる可能性もあります。

まだ元気なAさんは自分の意思で自由にお金を使いたいため、預金3,000万円のうち自由に使えるお金1,000万円を残して、残りの預金2,000万円を信託することにしました。

こうすることによって、元気なうちは自分の意思で自由にお金を使い、認知症になった時は信託財産で管理してもらっている預金から生活費等を受け取ることができます。

また、信託しない財産については遺言で承継先を決めておくことを提案されています。

では、認知症になるまでに自由に使える預金1,000万円を使い切ることができなかった場合、その預金は信託には入れられないのでしょうか?

信託財産の追加ができる

家族信託では、契約の途中から信託財産を追加することができます。

例えば、預金の追加信託をしたいときは、当事者の合意の上で、その都度金銭で信託を追加できる条文を信託契約に入れておきます。

最初の信託契約を締結する際に、当事者間で追加信託ができる旨を定めておくと、財産を追加する度に信託契約を行う必要なく、家族信託専用口座にお金を振り込む手続きをするだけで簡単に追加信託を行うことができます。

追加信託について定める場合、信託契約書には以下のように記載します。

「委託者は、受託者の同意を得て金銭を本信託に追加することができる。」

今回の事例では、信託契約の際にAさんと息子の間で金銭の追加信託ができる旨を定めておきました。

もし、Aさんが1,000万円のうち700万円を使って、残りは信託したい場合、残りの300万円を追加信託することになります。

ただし、追加信託は委託者が認知症になってからでは、行うことができませんので、ご注意ください。

本人の預金は本人が意思表示できないと引きおろしできないのが原則です。

また、不動産など金銭以外の追加信託を行う場合もあります。

不動産を追加信託する場合には、その不動産の名義を受託者のものとする所有権移転登記(名義変更)の手続きが必要になります。

金銭の追加信託のように簡単に追加できるものではありませんので、

不動産の追加信託の際は家族信託に詳しい専門家に相談しましょう。

信託できない財産、信託が難しい財産

預金や不動産、株式など、あらゆる財産が家族信託の対象となり得ます。

しかし、財産の中には「信託できない財産」や「信託が難しい財産」もあります。

信託できない財産:一身専属権

一身専属権とは、その権利の性質から特定の人にしか行使することができない権利のことをいいます。

例えば、生活保護や年金などを受け取る権利は一身専属権ですので、他の人に信託することができません。

信託できない財産:農地

さらに、「農地」も信託できない財産に含まれます。

農地は農地法という法律で規制されており、信託による所有権移転登記(名義変更)が原則禁止されています。

農地を信託したい場合は、農地転用または転用目的権利移転の許可を受けて、地目を変更してから信託します。

なお、農地のまま信託したい場合は、農業委員会への許可等を受けることが条件の「条件付信託契約」を締結する必要があります。

信託の難しい財産:自動車

自動車を信託した場合、自動車の名義は受託者のものとなります。

受益者がその自動車を運転している最中に事故を起こしてしまった場合、その責任を誰が負うのか?という問題が発生します。

一部を除き、受託者は信託行為の中で発生した債務で信託財産の身では返済できない場合には、受託者の財産から支払う義務があります。

もし、受益者が運転した車で人に怪我をさせてしまった場合には、その賠償責任を受託者の財産から行う可能性があるということです。

しかし、それでは受託者の負担が大きくなってしまうため、信託法では信託財産の範囲で責任を負う旨の合意がある場合は、その合意を有効とする決まりができました。

自動車を信託する場合は当事者間でよく話し合い、信託における責任について決めておきましょう。

信託の難しい財産:ペット

また、ペットを信託する場合も注意が必要です。

ペットを飼っている人であれば、自分に万が一のことがあったときにペットはどうなるのかと心配になります。

もし、ペットを信託財産として預けることができれば、自分の死後も家族にペットの面倒を見続けてもらうことができるのです。

しかし、ペットは不動産や預金などと違って特定することが難しく、管理の定義も曖昧になってしまいます。

そこで最近関心を集めているのが、ペットを直接信託財産にしない「ペット信託」です。

ペット信託とは、あらかじめ財産の一部を家族や団体に信託しておき、自分に万が一のことがあったときに預けた財産の中からエサ代などの飼育費を支払うことができるというものです。

飼い主として、ペットの面倒を見ることができなくなった時のことを考えておきましょう。

「ペット信託」の詳しい情報は→こちらから

信託の難しい財産:有価証券

認知症になると有価証券の取引ができなくなり、持っている株が暴落することが分かっていたとしても売ることができなくなってしまいます。そこで、有価証券を信託することで、受託者に株の取引等を行ってもらうことができるのです。

有価証券を信託する場合、名義を変更して管理するために家族信託専用の口座を開設する必要があります。オリックスや野村証券など、大手の証券会社では家族信託専用の口座に対応しているところもありますが、まだまだ証券の信託は進んでおらず、ほとんどの証券会社が信託専用口座に対応していないのが現状です。

また、有価証券によっても信託のできないものもありますので、有価証券の信託には注意が必要です。

まとめ

家族信託では自分が預けたい財産のみを信託することが可能です。

「家族信託を利用したいけど、全財産を預けるのは不安」という悩みを抱えている方は多くいらっしゃいます。

契約後の追加信託も可能ですので、まずは少額からの信託や自宅のみの信託からスタートしましょう。

信託しない財産については、遺言を作成することでスムーズな相続手続きを実現することができます。

ソレイユ相続相談室では、

豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたの家族の事情にあった家族信託のご提案を行っております。

家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士 長野事務所所長

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。