家族信託とは、委託者が認知症対策や子・孫の無駄遣い防止など、様々な目的で活用できる制度です。 信託財産を預かった人(受託者)は、信託契約書で定めた規定に沿って信託財産の管理を進めていくことになりますが、具体的にはどのように管理していけば良いのでしょうか? 今回は、家族信託で信託された財産を受託者がどのように管理・処分するのか、受託者の行うことができる業務についてご説明していきます。

作成日 2021年10月26日

受託者ができる事務

信託契約には主に以下の人物が登場します。

・委託者:信託財産を預ける人

・受託者:信託財産を預かって管理をする人

・受益者:信託財産によって利益を受ける人

例えば、認知症対策の場合には、委託者=受益者の形で信託契約を締結し、自分の財産を自分のために管理してもらうことができます。

信託された財産は、受託者の名義に変更されて受託者が管理することになります。これは、財産の名義を委託者のままにしておくと、もし委託者が認知症になった場合に、預金が凍結されたり不動産の売却ができなくなったりと、受託者が委託者の財産を管理することができなくなってしまうからです。

例えば、Aさんが認知症対策として以下のような信託契約を締結したとします。

【信託契約案】

・信託財産=Aさん名義の自宅、預金2,000万円

・委託者=Aさん

・受託者=長男

・受益者=Aさん

このような信託契約を締結したことによって、自宅と預金の名義はAさんから長男へ移ります。

Aさんは長男に自宅と預金を管理してもらいながら自宅に住み続け、預金の中から生活費等の支払いを受けることができるのです。

さらに、Aさんが自宅で生活できずに施設に入居するような場合には、自宅を賃貸しあるいは売却して、そのお金を施設入居費や介護費用、生活費に充てる契約をすることもできます。

では、受託者は自宅と預金をどのように管理していけばよいのでしょうか?

不動産の場合

自宅の場合は、法務局で「所有権移転登記」と「信託登記」の申請をして受託者へ名義を変更して行います。

その後、受託者は信託目的を達成するために必要な事務を行なっていきます。

信託目的は認知症対策や賃貸不動産の経営承継など、人によって異なりますので、受託者が行うことができる事務については信託契約書に記載しておくことが必要です。

例えば、Aさんと長男の締結した家族信託がAさんの生涯の生活の支援を目的としており、その内容が、Aさんが自宅で暮らせるうちは自宅を修理等しながら暮らし、万が一自宅での介護が難しく施設に入居しなければならないときは、介護の状況や入居する施設・その時の預金の残金の状況に応じて、自宅を賃貸して賃貸収入を施設費用に充てるか、自宅を売却して施設入居費や介護費用等に充てるという内容であれば、以下のような契約条文を入れておきます。

受託者は、本信託の信託目的に従い、受益者の利益のために、忠実に信託事務の処理その他の行為を行い、かつ、善良な管理者の注意をもって、信託目的を達成するために必要な事務を行うことができる。

・信託不動産について、本信託の定めに基づき、適切に維持管理・改良・修繕・保全を行い、受託者が相当と認める方法、時期及び範囲において信託不動産の売却等処分をおこなうこと。

あるいは

・本信託の目的に反しない範囲において、信託不動産の売買・建設・建て替え・取り壊し、信託不動産への担保設定を含む信託不動産の処分及び賃貸不動産としての運用を行うこと。

上記のような内容で信託契約を締結すると、受託者は信託不動産の維持・管理・修繕・保全の他にも、必要があれば信託不動産の売却や建て替え、信託不動産を担保としたお金の借り入れなども行うことができます。

信託契約で定めることによって、受託者に幅広い信託行為を認めることができますので、信託の目的に合った契約内容にすることが大切です。

預金の場合

預金の場合は、受託者名義の口座か家族信託専用の口座に委託者の預金を移す必要があります。これは、受託者には信託預金を受託者の固有の財産と分別して管理しなければならない義務があるからです。

信託契約書には以下のように記載します。

『受託者は、次の各号に定める方法により、信託財産を自己の固有財産と分別して管理するものとし、それらと混同し、又は私的に流用してはならない。

(1)現金については、信託財産に属する財産と受託者の固有財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法

(2)預貯金については、信託財産管理のための専用の預金口座を開設する方法』

そして、長男はAさんのためにAさんの自宅と預金を管理し、生活費など信託契約で定めた費用の支払いを行うことになります。どのような費用を信託口座から支払うのかについては、信託契約を締結する際に当事者間で取り決め、信託契約書に以下のように記載しておきます。

『(受託者の信託事務等)

第◯条 受託者は、信託された金銭(以下、「信託金融資産」という。)から、受益者に生ずる次の各号の費用を直接支払い又は支払いのための金員を受益者に交付することができる。また、次の各号の他、第◯条の目的に適合する費用に充てるために金銭の給付が相当と認められたときは、受託者の裁量により金員を受益者に交付することができる。

(1)生活費

(2)医療費

(3)介護サービス費

(4)介護施設費等の施設利用費

(5)受益者の死亡に伴う葬儀費、埋葬費等

(6)その他緊急の理由で必要かつ相当と認められる費用』

信託財産である預金の中から、受益者に生活費等のお金を支払う以外にも、受託者は預金について以下の行為を行うことができます。

・信託口座を作成する

・信託口座からお金を引き出す

・信託によって生じた費用を支払う

・自動振替先を信託口座へ変更する

・信託口座を定期預金にする

信託口座を定期預金にする場合には、金融機関と事前に話し合う必要があります。また、金融機関によっては信託口座の定期預金を取り扱っていない可能性もありますので、あらかじめ問い合わせて確認しておきましょう。

信託財産の管理方法

家族信託では、信託の目的を達成するために受託者に様々な権利を与えることができます。

その代わり、受託者には①善管注意義務、②忠実義務、③分別管理義務の3つの義務が課されています。

①善管注意義務とは

受託者は、信託事務を処理するにあたっては、善良な管理者の注意義務をもってしなければならないというものです。

②忠実義務とは

受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理、その他の行為をしなければならないというものです。

③分別管理義務とは

受託者は、信託財産と受託者固有の財産とを分けて管理しなければならないというものです。

これらの3つは、全ての家族信託に適用される義務です。

1つでも怠った場合には、信託契約が当然に終了してしまう可能性もありますので注意しましょう。

また、信託財産の管理として、信託契約では「信託事務の再委託」についても決まりを設けることができます。

例えば、委託者=受益者=Aさん、受託者=長男とした信託契約において、長男が受託者の事務を怠って他の人に任せる可能性があります。

このような信託事務の再委任を認めたくない場合には、信託契約書に以下のように記載しておきます。

『受託者は、信託事務の処理を第三者に再委託してはならない。ただし、本信託の目的に照らしてやむを得ない事由があるときは、この限りでない。』

このように記載しておくことで、長男はやむを得ない事由がなければ受託者としても事務を他の人に任せることができません。

また、特定の事務(アパートの賃貸管理等)において、特定の業者に再委任が必要な場合なども信託契約によって定めることができます。

さらに、信託契約では受託者がどのように財産を管理しているのかを細かく知ることができません。ですから、受益者は信託事務の処理状況や信託財産の管理について、受託者から報告を受けることができます。信託事務等の報告に関して、信託契約書への記載例をご紹介します。

『・受託者は、各計算期間中の信託財産に関する出納帳等の帳簿その他の書類を作成するほか、各計算期間中の信託事務の処理状況及び信託財産の状況について、受益者に対し、各計算期日から2か月以内に書面又は電磁的記録により報告しなければならない。

・受託者は、受益者から報告を求められたときは、信託事務の処理状況及び信託財産の状況について、受益者に対し、速やかに報告するものとする。』

このような記載をしておくことによって、受託者は記載通りに信託事務等の報告を行うことになります。当事者間で話し合い、信託の目的に合った規定をあらかじめ決めておきましょう。

まとめ

信託契約は信頼できる受託者の存在が不可欠です。信頼関係の証として、信託財産を預かった受託者がどのように財産を管理するのかは、信託契約書で細かく定めておきましょう。

また、家族信託は信託の目的も重要となります。信託の目的を達成することができるように、あらかじめ受託者ができることや、してもらいたいことを決めておきましょう。信託目的に合った信託契約書の作成は、家族信託に詳しい専門家に相談しましょう。

ソレイユ相続相談室では、豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたに合った家族信託のご提案を行っております。

家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。