「自分に万が一のことがあったとき、障害を持った子どもの生活が心配」

このような悩みをお持ちの方は多くいます。

自分に何があっても子どもへの資金援助を続けられるよう、

家族信託を活用した解決策をご紹介いたします。

事例1:家族信託で親が子に

もうすぐ65歳になるAさんには、障害を持った子Bと、その弟Cがいます。

 Bさんは障害者年金をもらってはいるのですが、生活費や医療費を支払って行くには障害者年金だけでは足りないため、Aさんが毎月5万円の援助を行なっている状況です。

しかし、最近自分に万が一のことがあったとき、障害のある子どもが生活していけなくなるのではないかと不安になってきました。

Aさんが行ってきた月5万円の支援を、そのままの形で信頼できる人に引き継いでもらうために、「家族信託」という制度を利用することにしました。

信託契約案は次のとおりです。

【信託契約案】

・信託財産=Aさんの預金

・委託者=Aさん

※委託者とは、信託財産を預ける人のことです。

・受託者=Cさん

※受託者とは、信託財産を預かる人のことです。信託財産は受託者の名義に変更され、財産の管理は受託者が行うことになります。

・第1受益者=Aさん、第2受益者=Bさん

※受益者とは、信託財産によって利益を得る人のことです。

今回の場合は、AさんがCさんに信託した預金からAさんと同居の子どもの生活費や医療費、介護費用の支払いを受ける権利が受益者のものとなります。

Aさんが亡くなった後の受益権はBさんに引き継がれます。

・信託目的=Aさんの生活資金の管理、Aさんが亡くなった後のBさんの生活資金の管理

・信託の終了時期=Bさんが亡くなった時

信託契約が始まったときは、受託者がAさんの子供のCさんで、受益者がAさんです。

ですから、CさんがAさんのためにAさんの預金を預かって管理し、Aさんは預金の中から生活費や医療費、介護費用の支払いを受ける権利があります。

その後、Aさんが亡くなったら、次はAさんの子、Bさんが受益者となり、Aさんの預金から生活費や医療費、介護費用の支払いを受けることができるようになるのです。

一見、「まだ認知症にはならないから、自分の預金を子どもに管理してもらう必要はないのではないか?」と思ってしまいます。

しかし、家族信託はできるだけ早いうちに仕組みを築いておくことが大切なのです。

例えば、Aさんが病気や事故で急に亡くなる可能性はゼロではありません。

そのとき、Aさんの預金口座が凍結されてしまうと、障害を持った子Bの生活費は誰が援助するのでしょうか?

また、Aさんが亡くなり、急にCさんが障害を持った兄弟の資金援助を行うことになったとき、勝手が分からず困惑してしまう可能性もあります。

早いうちに家族信託を活用することによって、Aさんに万が一のことがあったときでも、Aさんの使っているスキームで滞りなく資金援助を続けることができるのです。

また、この信託契約は贈与税の対策にもなります。

例えば、委託者=Aさん、受益者=Bさんに設定すると、AさんからBさんへの贈与があったとみなされ、贈与税の対象となってしまいます。

しかし、この事例では委託者=受益者=Aさんとなっており、財産の移動がないため贈与税がかかりません。

さらに、同居親族の子BへのAからの生活費や教育費の贈与には贈与税がかかりません。

ですから、AさんはAさんの子Cが管理する預金口座から、自分とBさんの生活費等を受け取り、その中からBさんに生活費等の支援をすれば良いのです。

なお、この方法はAさんの子BがAさんの扶養義務者になっていることが条件です。

事例2:家族信託で祖父からの資金援助をする

「祖父母が障害を持った孫のために資金援助をしたい」という例も珍しくありません。

このような場合にも、家族信託を使うことができます。

相談事例は次のとおりです。

Aさん(60歳)は、障害を持った子B(25歳)とAさんの父D(85歳)と一緒に、Dさん名義の自宅に住んでいます。

Aさんの父Dさんは、障害を持った孫のために資金援助をしたいと考えています。

そこで、Aさんは「家族信託」を利用し、障害を持った子どもの資金援助を行おうと考えています。

この事例では、どのような信託契約を締結すれば良いでしょうか?

【信託契約案】

・信託財産=Dさんの預金2,000万円

・委託者=Dさん

・第1受託者=Aさん、第2受託者=Aさんの妹

・受益者=Bさん

・信託目的=Bさんの生活費等の確保

・信託の終了時期=Bさんが亡くなったとき

この信託契約には、先ほどご紹介した事例とは異なり、第1受託者と第2受託者が設定されています。

第1受託者とは初めに受託者となる人で、第2受託者は第1受託者が亡くなる等の理由により受託者ではなくなったときに受託者となる人のことです。

この事例では、Aさんが受託者ではなくなったときに、Aさんの妹が受託者となるように設定しました。

もし、Aさんの万が一のことがあり受託者ではなくなった時は、第2受託者であるAさんの妹にバトンタッチをして、信託財産の管理を行ってもらいます。

また、この信託契約は、障害を持った子どもが安心して暮らすために締結したものですから、信託の終了時期はAさんの子Bが亡くなったときに設定すると良いでしょう。

この信託契約では、当初の委託者と受益者が違っていて贈与税の課税対象になってしまいます。

Aさんの父Dさんは、自分の預金2,000万円を障害を持った孫Bに贈与し、Bさんが亡くなるまでAさん、さらにAさんの妹に預金のを管理を任せることができるのです。

なお、この信託契約では「贈与税」の問題に注意する必要があります。

先ほどもご説明したとおり、委託者=受益者となる場合は財産の移動がないため、贈与税はかかりません。

しかし、今回の事例では委託者=Aさんの父D、受益者=Aさんの子Bと、異なる人が設定されているため、DさんからBさんへの贈与があったとみなされ、贈与税が課税されてしまうのです。

そこで、贈与税の節税に効果的な「相続時精算課税制度」を利用します。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫に贈与をするとき、2,500万円までの部分には贈与税がかからない制度です。

この2,500万円は一度に贈与をする必要はなく、同一の父母または祖父母からの贈与に対しては、2,500万円に達するまで何度でも非課税で贈与をすることができます。

今回の事例では委託者(贈与者)であるDさんが85歳、受益者(受贈者)であるBさんが25歳ですので、制度の適用要件を満たしています。

この制度を利用することによって、Dさんの預金2,000万円を非課税で孫Bに贈与することができるのです。

相続時精算税制度を利用すると、贈与者Dが亡くなったときに、贈与財産を相続財産に加え直して相続税を計算します。

贈与税はかからなくても相続税の対象となりますので、信託契約を締結する前に相続時精算課税制度を利用した方が良いかを慎重に検討しましょう。

まとめ

家族信託は、障害を持った子どものいる親が自分に万が一のことがあった場合、引き続き子どもに経済的援助をするためにも利用することができます。

自分が築いてきた援助の仕組みを「家族信託」という形で信頼できる人に託すことで、その子が亡くなるまで親が計画したスキームで援助を続けることができます。

障害の程度や援助の方法、家族構成などによって信託契約が変わってきます。家族信託を活用する場合は、家族信託に詳しい専門家に相談しましょう。

また、家族信託には税務の知識が欠かせないので税務がわかる人に家族信託の設計を相談することが大切です。

ソレイユ相続相談室では、豊富な実務経験のある税理士と行政書士があなたの家族事情にあった家族信託のご提案を行っております。

家族信託をご検討のお客様は、ぜひ一度ご相談ください。

この記事の監修者

宮澤 博

宮澤 博 (税理士・行政書士)

税理士法人共同会計社 代表社員税理士
行政書士法人リーガルイースト 代表社員行政書士 長野事務所所長

長野県出身。お客様のご相談に乗って36年余り。法人や個人を問わず、ご相談には親身に寄り添い、お客様の人生の将来を見据えた最適な解決策をご提案してきました。長年積み重ねてきた経験とノウハウを活かした手法は、他に類例のないものと他士業からも一目置くほど。皆様が安心して暮らせるようお役に立ちます。