家族信託とは?

「信託」というと、自分の財産を「信託銀行」に預けて管理し運用してもらうことを思い浮かべる方が多いと思います。

家族信託は、銀行が行っている信託(商事信託といいます)という同じ法律の中の民事信託を使って、 営利を目的とせずに家族間で行うことをいいます。

簡単にいえば、契約によって家族の誰かが信託銀行の役割をして、 家族の財産を預かって一定の目的の中で、管理運用や処分をすることをいいます。

家族信託でできること

家族信託は<新しい財産管理と財産承継の形>として高齢化時代の様々な問題解決の活用できる仕組みと言えます。

新しい財産管理

自分の財産は自分で管理するし、したいものです
でも、高齢になって自分で財産が管理できなくなったら…?
誰に管理してもらうか考えていますか?

自分で財産管理ができなくなると、今までは 成年後見制度 を使うことが主流でした・・・・
これからは、まず 家族信託 が使えるかどうかチェックしてみてください。

新しい財産承継

自分が亡くなった後の財産を巡って、家族の争いになるのは望みませんよね?
争いの心配が無いとしても残された家族の生活は心配ですよね・・・

今までは 遺言 を使うことが主流でした・・・・
これからは、まず 家族信託 が使えるかどうかチェックしてみてください。

認知症対策としても有効な家族信託

当相談室には、認知症のことを心配されてご相談にお越しになる方が大変多くいらっしゃいます。
認知症を発症すると、進行にもよりますが、意思判断能力に問題が生じて、次のようなことができなくなる可能性が高いです。

認知症の発症で、できなくなる可能性が高いもの

家族信託を活用することでこのような心配ごとが解決できます。
実際に解決できるケースが非常に多いため、注目され普及しています。

家族信託の仕組み

それでは家族信託の基本的な仕組みについて見てみましょう。

家族信託の主な登場人物は3人です。
委託者
受託者
受益者

家族信託では、基本的にこの3者が当事者となって信託契約内容を考えていきます。

ちなみに、上記の3人の他に信託に登場する人物には、
受託者を監視監督する立場の「信託監督人」や受益者が信託財産から利益を受けられない場合などに代わりに利益を受ける「受益者代理人」などがいます。
そのご家族の事情により、登場させる人物が違ってきます。

 👉参考 家族信託(民事信託)用語集

また、最初に登場人物は3人とご説明しましたが、家族信託で多いのが最初の委託者が受益者と兼ねる「委託者=受益者」というパターンです。 家族信託が始まり、委託者が亡くなったら、①信託終了する②次の受益者へと続くのどちらかになります。

ここで、「信託された財産」については、「信託が終了したら残った財産は●●へ」と信託契約書に書かれてると、そのとおりに財産の名義を移すことになります。 信託契約をしておけば遺言の代わりになると言われる所以はここにあります。

家族信託のメリット・デメリット

家族信託をつかう具体的メリット

ここでは10のメリットをご紹介します。

1、振り込め詐欺の防止ができる

高齢になった親の預金の名義を、家族信託で子の名義に変えて、そこから生活費や医療費支払いを子が管理すれば、親が振り込み詐欺等の被害にあうことを防げます。

2、預金の封鎖(口座凍結)の防止ができる

高齢になった親が認知症等になってしまっても、家族信託で財産を子(受託者)の名義にしておけば、定期預金が解約できない心配もないし、不動産も子の名義で売却することができます。意外と多い、親の老後の介護費用や施設入居費の支払いの心配も、受託者となった子が必要なタイミングで不動産を売却して費用に充てることで、一安心できます。

3、贈与税なく名義が移転できる

親の名義の預金や不動産を家族信託で子の名義に変えても、契約方法を間違えずに行えば贈与税がかかる心配がないので、税務署の目を気にすることなく財産管理ができます。

4、財産管理の見える化ができる

相続トラブルで多い、親の財産管理を行っている子が、他の兄弟から私的流用を疑われるケースがありますが、家族信託を使えばトラブルを防ぐ対策にもなります。

5、遺言の代わりになる

家族信託で名義を変えた財産の最終的な帰属先(財産をもらう人)
は、家族信託の契約の中で決めておくので、遺言の代わりになります。家族信託を使えば遺言作成や相続手続きの手間やコストを減らすことも可能です。

6、遺言にできない承継策ができる

  • ①家族信託では遺言ではできない世代をつなぐ財産承継をあらかじめ決めておくことができる

    例 遺言でできないこと
    自宅を 夫⇒妻⇒子供⇒孫 の順番に相続させたい希望に法的効力を持たせることができない。 ⇒遺言で法的効力を持たせられるのは、この場合 夫⇒妻 までです。
    次の 妻⇒子 への自宅の相続は、夫から自宅を相続した妻が妻の遺言で決めなければなりません。
    また、この時点で、もし妻が認知症になっていた場合、妻自身が相続した財産の管理ができず成年後見人が妻が亡くなるまでの間財産の管理をする可能性もあります。

    家族信託を使えば、夫⇒妻⇒子供⇒孫 まで契約にしてつなぐことも可能です。
    妻に判断能力がなく財産管理ができない場合でも夫の財産で妻が生活できますし、遺言ではできない財産の承継先の順番をも決めておけるので、後々、遺言がなくて遺産分割協議がまとまらず・・・というトラブルも避けられます。

  • ②財産管理を次代に承継できる

    家族信託では、世代をつなぐ財産承継ができるので、障害を持ったお子さんのために遺す財産と、その管理者を夫⇒妻⇒子(障害を持った子の兄弟)⇒孫他 とつないで設計しておくこともできます。
    遺言では世代をつなぐ財産と管理者の承継は困難です。

    活用事例はコチラ

7、不動産が共有の場合に起こる問題を解消できる

不動産を売却したい場合に、その不動産が共有だと共有者全員が同意しないと売却できません。
もし、将来的に共有者の仲が悪くなる可能性があれば、売却のために事前に他の共有者全員の持分を買い取ってから売却したり、自分の共有持分を安い金額売却するなど、思うとおりの不動産売却とならないリスクがあります。
家族信託を使って、共有不動産を信託しておけば、受託者の名義で不動産が売却することができるため、他の共有者の同意が取れない間に不動産価格が下がってしまうなどのリスクも避けられます。
ただし、共有持ち分を受託者名義にした段階で課税される可能性がありますので、この場合には家族信託に強い税理士に相談することをお勧めします。

8、相続税の節税策が継続できる

家族信託は、次の二つができるので相続税の節税対策が継続できます。

  • ①数年にまたがる親の節税対策を検討している際に、親が認知症になってしまって計画が中断してしまう事を家族信託で計画実行を継続して、防ぐことができます。
  • ②相続税の節税対策として有効な、小規模宅の特例、配偶者の税額軽減、債務控除等を、どの世代でどのように使うと効果的なのか設計して、家族信託に組み込むことで、最小の相続税負担で財産を承継していく計画を遺言より確実に実行することができます。

9、成年後見制度よりも柔軟で運営コストも安くできる

家族信託は、本人の判断能力があるうちに家族間で財産の管理を契約します。契約後は財産を託された受託者が管理・処分できるので、信託目的に沿って、資産の運用や賃貸不動産の建設、建替えや買換えといった資産の組換えも実現できます。
また、成年後見制度のように、家庭裁判所が介入して、専門家に支払うコストが毎月かかることが無いように設計することもできます。
成年後見制度に比べてコストを安く運営することが可能になります。

10、事業承継にも活用できる

  • ①子どもに会社を継がせたい
    家族経営の会社の場合、現社長が子どもに会社を継がせることが多いでしょう。
    家族信託を使えば、贈与税がかからず株式を子ども(受託者)名義にすることができます。
    しかし、「まだ子どもには会社を完全に任せられない」と迷われている場合には、契約内容で指図権を設定することで経営に参加することが可能です。
    また、現社長がさらに次の後継者(例:孫)まで決めておきたい希望があった場合にも、信託契約でその意思を反映することが可能です。
  • ②会社を廃業する場合
    子どもが会社を継がず後継者がいない場合などで会社を廃業する際に、廃業の過程で現社長が認知症になってしまうことも考えられます。
    株式や例えば社長個人の土地を会社に貸している場合などは、それらを家族信託を使って家族(受託者)名義にすることで、会社を清算するまでの間は受託者である家族が廃業の計画を実行することが可能です。

    活用事例はコチラ

家族信託の持つデメリット

家族信託はメリットが多い反面、デメリットもあります。
主なデメリットを次の5つあげたいと思います。

1、受けてくれる家族がいないと簡単にできない

最も多い理由は、財産を預けられる家族(信託できる家族)がいないと使えないこと。
家族信託は家族間の契約ですから、財産を信頼して託せる家族がいないと原則として成立しません。もちろん家族信託にも成年後見制度のように不正を管理する仕組みはありますし、作ることは可能ですがコストがかかるのも事実です。
預けられる家族がいない場合に、一般社団法人を設立して財産を預ける方法もありますが、少し仕組みが複雑になるので検討されても選ばれない理由となっているようです。
さらに、「信頼できる家族」が受託者となるので、受託者に兄弟姉妹がいる場合は他の人が自分が受託者に選ばれなかったことを不満に思い、後々まで尾を引く可能性もあります。
後々トラブルにならないように、他に兄弟姉妹がいる場合には、できる限り第二受託者等として信託に参加してもらえるように家族会議を開くのも一つの手です。
また、信託財産は名義が受託者になるため、特に不動産や預金の名義が変わることに抵抗感を持つ方もいらっしゃいます。
委託者となる人が、何のために信託をするのか、家族信託について十分に理解されていないと「自分の財産を取られる」と誤解されてスムーズに進まない可能性もあります。家族間で話す際には、委託者本人の希望などをよく聞くことが重要です。

2、登記料がかかってしまう

家族信託の財産として不動産を選択することも可能ですが、不動産を信託するには、登記が必要になり、相続発後に必要になる相続登記と同じくらいの登記料がかかってしまいます。
このコストは、代を重ねて信託を連続させると、むしろ登記料のコストを下げることも可能ですが、いずれにせよ信託設定時に登記料が必要です。
この負担が遺言では相続開始まで必要ないですし、信託を連続させて継続させない場合には、遺言に比べて二度かかってしまう計算にもなるので家族信託を選択されない方がいらっしゃいます。

参考 家族信託 費用の目安

家族信託契約内容組成(コンサルティング費用)費用

信託財産の額によります。契約書作成は別途記載の場合もあります。
財産額(評価額)3,000万円以下で30万円

最低30万円からと設定している専門家が多く見受けられます。

公正証書役場の手数料

信託に入れる財産の例

自宅
土地 固定資産評価額 4,000万円
建物 500万円
預金 3,000万円

上記の例で日本公証人連合会ホームページにある手数料の表を見ると、目的の価額が5,000万円を超え1億円以下ですので43,000円となります。
このほか、公正証書の用紙代が1枚250円、公証人から出張してもらう場合は別途費用が加算されます。

日本公証人連合会 10手数料

法律行為に関する証書作成の基本手数料

  • ①契約や法律行為に係る証書作成の手数料は、原則として、その目的価額により定められています(手数料令9条)。 目的価額というのは、その行為によって得られる一方の利益、相手からみれば、その行為により負担する不利益ないし義務を金銭で評価したものです。目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します。
    【法律行為に係る証書作成の手数料】(公証人手数料令第9条別表)
    ※表は上記サイトにあるように作成
  • ②贈与契約のように、当事者の一方だけが義務を負う場合は、その価額が目的価額になりますが、交換契約のように、双方が義務を負う場合は、双方が負担する価額の合計額が目的価額となります。
  • ③数個の法律行為が1通の証書に記載されている場合には、それぞれの法律行為ごとに、別々に手数料を計算し、その合計額がその証書の手数料になります。法律行為に主従の関係があるとき、例えば、金銭の貸借契約とその保証契約が同一証書に記載されるときは、従たる法律行為である保証契約は、計算の対象には含まれません(手数料令23条)。
  • ④任意後見契約のように、目的価額を算定することができないときは、例外的な場合を除いて、500万円とみなされます(手数料令16条)。
  • ⑤証書の枚数による手数料の加算 法律行為に係る証書の作成についての手数料については、証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます(手数料令25条)。
信託の登記に必要な費用

【登録免許税】

上記の例で、不動産登記にかかる登録免許税は、
土地 4,000万円×3/1000=12万円
建物 500万円×4/1000=2万円

登録免許税法第9条
別表第1号
1不動産の登記(不動産の信託の登記を含む。)
(10)信託の登記
イ 所有権の信託の登記 不動産の価額の4/1000

財務省HP 令和3年度税制改正の大綱より

二 資産課税
5租税特別措置等
〔延長・拡充〕
1 土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減(租税特別措置法第72条第1項)
〈登録免許税〉
(5)土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年延長する。

→「土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減」は、本則では不動産の価額の4/1000となっていますが、令和3年3月31日まで3/1000に軽減されていました。
これを令和5年3月31日まで延長されることが決まりました。

【司法書士への報酬】

依頼する司法書士の先生によります。
10万円~20万円で設定されているようです。

当相談室の「お支払いモデルケースはこちらへ」

3、成年後見人ができる「身上監護」はできない

家族信託はあくまで財産を管理する仕組みですから、成年後見制度のような「身上監護権」がありません。「身上監護」とは、本人の生活や治療、療養等についての法律行為を行うことで、病院への入院手続きや施設への入所手続き等があります。
したがって、「受託者」の方が本人の入院手続きや施設入所手続きをすることはできません。
・・・といっても、受託者の方が家族であれば、病院への入院や施設への入所手続きはできます。
わざわざ受託者の身分で手続きをしなければいけないケースはめったにないとは思われます。

4、信託財産に入らない財産(相続財産)は手当てが必要

例えば、年金は本人の口座でなければ振り込まれません。家族信託で預金を管理する際は「信託口口座」を使いますが、今のところ年金は信託口口座に振り込んでもらうことができません。
将来的に相続が発生した場合に年金口座は「相続財産」となります。相続人が複数人いる場合は、この相続財産について遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議が必要となります。
せっかく信託で財産の帰属先を決めてたとしても、信託財産に入らなかった(入れなかった)財産で揉めてしまうと元も子もありません。
遺言を準備するなど対策することをお勧めします。

また、注意点として、信託財産は相続財産と区別されますが、信託財産に対して遺留分侵害請求がされないとは言い切れないことがあげられます。
例えば、相続人が複数人いる場合で、相続の発生と同時に信託が終了した場合を想定します。殆どの財産が信託財産で、帰属権利者が相続人のうちの1人だけになっているような場合に、他の相続人の遺留分を侵害していると信託財産遺留分侵害請求の対象となる可能性があります。これについては、専門家の間でも意見が分かれているので、信託財産が遺留分侵害請求の対象とはならないことを前提として、家族信託の設計をするのはリスクがあります。

5、家族信託をしても節税効果は薄い

家族信託は、委託者から受託者に財産が移った際に贈与税がかからないので「節税できた」と考えるのは大きな誤解です。
信託法という法律では、受益者に税金がかかるようになっています。したがって、家族信託で、契約開始時に「委託者=受益者」ではない場合には、(財産額にもよりますが)贈与税の課税対象となります。
また、先ほどの「委託者=受益者」と設定されていると、委託者が亡くなると相続税が課されます。

 👉参考 家族信託と課税のリスク

家族信託に必要な手続き

それでは、実際に家族信託を始めたい場合に、どのような手続きを経て始められるのか見ていきましょう。

家族信託を始めるにあたっての、大まかな流れは次のようになります。

ⅰ.家族信託の設定方法

まずは、それぞれのご家族の事情に沿った信託をするには、どんな方法があるのかをご説明します。

家族信託の設定方法には次の3つがあります。

①信託契約を結ぶ方法
②遺言による方法
③信託宣言(自己信託)の方法

  • ①委託者となる人と受託者となる人が、信託の目的、信託する財産、財産の管理方法、どのような場合に信託が終了するか・誰に権利を移すか等を取り決めて契約を結びます。
    契約は口頭でも有効ですが、長期スパンで契約内容を設計するため、契約書を作成するのが一般的です。
  • ②遺言信託
    遺言の中で信託を設定します。
    ただし、遺言なので、家族信託のときのように、委託者と受託者が契約するのではなく、遺言者(委託者)が一方的な意思表示となります。
    そのため、受託者に指定された人から拒否されることも考えられます。万が一、遺言で指定された人が受託者になることを引き受けない場合は、遺言執行者をはじめとする利害関係人が家庭裁判所に受託者選任の申立てをすれば、受託者が選任され信託が開始されます。
    また、注意点としては、遺言信託は遺言者(委託者)の死後に効力が発生するため、遺言信託の内容に「その地位・権利を相続する」等の条文が入っていなければ、委託者は以降不在となることです。
    その他のリスクとして、自筆証書遺言の中で信託を設定する場合に、法律で厳格に定められた遺言の様式に沿って書かれていないと、遺言自体が無効になってしまうことが考えられますので、信託をどのような方法で設定するのかは慎重に検討しましょう。
  • ③信託宣言(自己信託)とは、委託者自らが受託者となり、委託者(受託者)以外の受益者のために委託者自身の財産を管理・処分等をする旨の宣言をすることにより信託を設定することをいいます。 会社の事業承継の場面で使われることもあります。
    信託された財産は、「倒産隔離」されるため、もし債務がある人が信託宣言してしまうと、債権者からしてみると債権回収が困難になる恐れがあります。
    このような理由もあり、信託宣言の場合は公正証書等により作成しなければ効力が発生しないと信託法に定められています。
    債権者保護と信託が詐害行為等になることを防止するために、信託財産に対する強制執行等の手続きも簡素化されているので、信託設定の際には注意が必要です。

上記①~③では、圧倒的に①の方法で家族信託を設定される方が多いです。
これまで当相談室にご相談に来られた多くのご家族が、家族信託の契約開始後に「これで安心できた」「やってよかった」と喜んでいらっしゃいます。

そこで、ここからは、家族信託の契約をする前提で、契約書の作成にあたり、どんな内容を盛り込めばよいのかのポイントをご説明していきます。

【信託の目的】

家族信託にはまず、「何のためにこの信託をするのか」の目的が必要です。
契約に盛り込む内容はすべて、目的に反しないように考えていかなければなりません。
そして、家族信託は、受益者のための契約ですので、信託財産から生ずる利益は受益者のものということを念頭に置いて、長きに亘る信託の受益者が変わることを見据えて目的を考えましょう。

【信託財産】

委託者となる人の財産のうち、どの財産を信託財産にするのかを決める必要があります。
例えば、賃貸不動産の収入から受益者に生活費を渡したければ、その賃貸不動産を信託財産にします。
既にご説明したように、信託財産となると名義が「受託者」になります。
不動産は、信託された不動産だと分かるように信託の登記をしますが、法務局で取得できる登記事項証明書(登記簿謄本)に記載される権利者の欄には「受託者 住所 氏名」と入ります。

【家族信託の登場者】

委託者となる人が誰に財産を託すのか、自分が亡くなった後は誰に引き継ぐのか、受託者が亡くなった場合は・・・?等、先々を見据えて誰を家族信託に登場させるのかを決める必要があります。

まずは、委託者、受託者、受益者の3者を誰にするか考えるところから始まります。必要に応じて、信託監督人や受益者代理人を設定します。

信託契約当初は、委託者と受益者は同じで、財産を管理してほしいのは長男(受託者)。
委託者が亡くなったら第二受益者を妻と障害を持った二男に引き継いでほしい。
二男が亡くなるまで長男が受託者として信託財産の管理をしてほしい。
信託が終了したら、残った信託財産は長男か長男が死亡していた場合は長男の子どもに引き継がせたい。
万が一、受託者の長男に何かあって信託財産の管理ができなくなった場合は、長男の妻に第二受託者になってもらいたい・・・ などを考えていきます。

ここで、例えば、上記のご家族の場合、委託者の子どもが長男、二男、長女の3人だった場合で、長女が信託への協力が難しいため第二受託者を長男の妻にしていたとします。 実際は長男の妻と長女の仲があまり良くないとすると、長女から委託者の信託財産を妻が自分のために使い込んだのでは?と疑われる可能性もあります。

そもそも家族信託は、委託者の財産を信じて託せる受託者に託すので、信頼関係が前提となっています。 しかし、信託に登場しない人から疑われてしまったり、まかり間違って受託者が信託財産を横領してしまわないように、受託者を監督する「信託監督人」を決めておくことで、「信託は不正がしづらい」と理解が得られやすいと言えるでしょう。

また、上記の「信託財産(→id設定してとばす)」でも触れたように、基本的に受託者は信託目的に沿って受益者のために、委託者の財産を管理・運用していくための義務が信託法に定められています。

以下、信託法条文から抜粋

受託者の注意義務(第29条)
  • 受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない。
  • 受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。
忠実義務(第30条)
受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない。
公平義務(第33条)
受益者が二人以上ある信託においては、受託者は、受益者のために公平にその職務を行わなければならない。
分別管理義務(第34条)
  • 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。ただし、分別して管理する方法について、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
    • 一 第十四条の信託の登記又は登録をすることができる財産(第三号に掲げるものを除く。) 当該信託の登記又は登録
    • 二 第十四条の信託の登記又は登録をすることができない財産(次号に掲げるものを除く。) 次のイ又はロに掲げる財産の区分に応じ、当該イ又はロに定める方法
      • イ 動産(金銭を除く。) 信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法
      • ロ 金銭その他のイに掲げる財産以外の財産 その計算を明らかにする方法
    • 三 法務省令で定める財産 当該財産を適切に分別して管理する方法として法務省令で定めるもの
  • 前項ただし書の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる財産について第十四条の信託の登記又は登録をする義務は、これを免除することができない。
信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督に関する義務(第35条)
  • 第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託するときは、受託者は、信託の目的に照らして適切な者に委託しなければならない。
  • 第二十八条の規定により信託事務の処理を第三者に委託したときは、受託者は、当該第三者に対し、信託の目的の達成のために必要かつ適切な監督を行わなければならない。
  • 受託者が信託事務の処理を次に掲げる第三者に委託したときは、前二項の規定は、適用しない。ただし、受託者は、当該第三者が不適任若しくは不誠実であること又は当該第三者による事務の処理が不適切であることを知ったときは、その旨の受益者に対する通知、当該第三者への委託の解除その他の必要な措置をとらなければならない。
    • 一 信託行為において指名された第三者
    • 二 信託行為において受託者が委託者又は受益者の指名に従い信託事務の処理を第三者に委託する旨の定めがある場合において、当該定めに従い指名された第三者
  • 前項ただし書の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
信託事務の処理の状況についての報告義務(第36条)
委託者又は受益者は、受託者に対し、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況について報告を求めることができる。
帳簿等の作成等、報告及び保存の義務(第37条)
  • 受託者は、信託事務に関する計算並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類又は電磁的記録を作成しなければならない。
  • 受託者は、毎年一回、一定の時期に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類又は電磁的記録を作成しなければならない。
  • 受託者は、前項の書類又は電磁的記録を作成したときは、その内容について受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人)に報告しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
  • 受託者は、第一項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、その作成の日から十年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときは、その日までの間。次項において同じ。)、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはそのすべての受益者、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人。第六項ただし書において同じ。)に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。
  • 受託者は、信託財産に属する財産の処分に係る契約書その他の信託事務の処理に関する書類又は電磁的記録を作成し、又は取得した場合には、その作成又は取得の日から十年間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
  • 受託者は、第二項の書類又は電磁的記録を作成した場合には、信託の清算の結了の日までの間、当該書類(当該書類に代えて電磁的記録を法務省令で定める方法により作成した場合にあっては、当該電磁的記録)又は電磁的記録(当該電磁的記録に代えて書面を作成した場合にあっては、当該書面)を保存しなければならない。ただし、その作成の日から十年間を経過した後において、受益者に対し、当該書類若しくはその写しを交付し、又は当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により提供したときは、この限りでない。

登場者についての注意点

委託者、受託者、受益者の複数人設定も可能ですが、特に不動産や債務がある場合など権利関係が複雑になり、後々に思わぬ課税がされるリスクがあります。
ご相談に来られたお客様から、「他の(税理士以外の士業の)先生に家族信託の相談をしたところ『家族信託は税務が怖い』と言われた」とお聞きすることが少なくありません。
長期スパンで考える必要がある家族信託の設計には、相続(税)対策も踏まえた家族信託に強い税理士のアドバイスがあると安心です。

ⅱ.信託契約書を作成する

家族信託の信託契約書は私文書でも有効です。
しかし、家族信託は、これまでのご説明でも触れたように、場合によっては何十年という長期間続いていきます。
その間、信託財産を管理する受託者が変わったり、信託財産から利益を受ける受益者も変わることが考えられます。
また、家族信託の内容は、その家族ごとに違いますので、単にテンプレートを使用して契約書を作成することは大きなリスクを背負うことになるため、専門家に相談しながら作成することをお勧めします。

これらのことを踏まえると、以下の理由で私文書よりも公正証書での契約書作成が安全です。

理由1 信託契約書の紛失を防げる

自筆証書遺言のトラブルの一つに、せっかく遺言を書いたのに失くしてしまい、結局遺産分割協議をすることになった・・・ということがあります。
このトラブルを防止するために法務局での自筆証書遺言を保管する制度がつくられたくらいなので、それだけ紛失が多いといえます。
私文書の信託契約書についても同じことで、私文書で作成すると当事者が長期間保管することになるため、当然に契約書紛失のリスクがあります。
一方で、公正証書の場合は、信託契約書の原本が公証役場に保管されます。信託契約書作成の当日には委託者と受託者へ契約書の正本が交付されます。
公証役場では契約書の原本を最低20年は保管してくれるので、万が一契約書の正本を紛失してしまったとしても、公証役場で再発行が可能となります。

理由2 公証人が証明してくれる

家族信託の登場者」の例で、委託者(Aとします)が亡くなったら妻が第二受益者になって委託者の財産で妻が亡くなるまで生活をしていく・・・といった場合に、Aの相続時に長女から自分の相続分を主張してくる可能性があります。
その相続分を巡って話が拗れると、長女から「私文書だと受託者が自分の都合の良いように作ったのでは?」「そもそも信託契約時にAは認知症で判断の能力がなかったから契約は無効ではないか?」などと主張されることも考えられます。
家族信託が注目されいる理由の一つに、高齢化に伴う認知症患者の増加を背景とした認知症対策があります。
実際のご相談でも、委託者がご高齢のケースが多いので、上記の長女のような主張が親族等からあったとしてもおかしくありません。
そうなった場合に、公正な第三者である公証人が、信託契約の当日に委託者と受託者と直接会って意思確認をするため、その信託契約が当事者の意思に基づくものだと証明されます。
したがって、私文書で作成された信託契約書よりも公正証書で作成するとトラブルのリスクが減らせます。

理由3 受託者名義にするための諸手続きの際に必要なケースが多い

家族信託が始まり、受託者が信託財産を管理していきますが、公正証書で作成された契約書でなければ預貯金を管理するための信託口口座を開設できない金融機関が多いです。
また、不動産を信託財産に入れる場合には、不動産の所有権を受託者に移転する信託の登記をしますが、私文書の場合にその内容に不備があると登記手続きができなかったり止まったりしてしまう恐れがあります。
このように、信託財産を管理するためにする諸手続きをスムーズに進めるために、公正証書で信託契約書を作成する方が安心です。

ⅲ.不動産を信託する場合は「信託の登記」をする

家族信託契約の中で、信託財産に不動産を含める場合は、その名義を委託者から受託者に移すため「信託の登記」をする必要があります。

通常の所有権移転登記と違う箇所は、「信託目録」を作成して登記申請をする必要があることです。 信託目録には、信託契約書に記載されている内容の中から「委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所」「信託の目的」「信託財産の管理方法」「信託の終了の事由」「信託の目的」など、重要な事項は必ず登記事項となり、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載され「公示」されます。

また、信託が終了した際に、信託財産に不動産が残っていた場合は、信託登記の抹消と信託終了による所有権移転登記をする必要があります。
この際の登録免許税は、基本的に固定資産評価額の20/1000(所有権移転登記分)と不動産1件につき1,000円(信託登記抹消分)です。
所有権移転登記の登録免許税の税率については、相続人が不動産の帰属権利者となっている場合、相続による所有権移転とみなすことができるかどうかで変わってきます。
専門的な知識が必要となりますので、専門家へ相談した方がよいでしょう。

ⅳ.家族信託専用の「信託口口座」を開設して、委託者の預貯金を信託口口座に移す

上記、受託者の義務にもあるとおり、受託者には、信託財産と受託者個人(受託者固有財産)の財産について分別して管理する義務があります。
そのために、殆どのケースで信託口口座(信託口座)を専用に設けて管理する方法が採られています。

現行の法律上は、金融機関で新たに開設した口座でも既存の口座でも構いませんが、注意点があります。
まず、信託口口座という言葉が使われる口座には2種類あります。
①正規の、ちゃんとした(というとおかしいのですが)」信託口口座と②なんちゃって信託口口座、信託口口座もどきと呼ばれるものがあります。

②から説明しましょう。 委託者が認知症等になったときに、預貯金口座が凍結されることが心配で家族信託を使いたい方が多いですが、口座が凍結される場面は次のようなことが考えられます。
・口座名義人が認知症等で判断の能力がなくなった
・口座名義人が自己破産した
・口座名義人が亡くなった

個人の預貯金口座であると、必ず直ぐに口座が凍結されるとは限りませんが、上記の場合に口座が凍結されてしまいます。

仮に、受託者個人(法人)名義の口座を信託口口座として使っていると、信託のために使っているけれど上記の場合は口座が凍結されてしまい兼ねません。
口座が凍結された場合は、その口座が信託のための口座であることを金融機関に証明して、凍結を解除してもらうことが必要になります。

①は、信託銀行で開設することができる信託口口座で個人の口座とは完全に分けられるため、②の口座が凍結される場面でも、その心配がありません。
しかし、信託口口開設に対応している金融機関は、まだまだ少ないのが現状です。

口座開設には、ⅱ.信託契約書を作成するでもご説明したとおり、公正証書で作成した信託契約書が必要です。
ただし、作成される信託契約書は、殆どのケースで専門家のチェックが入っていることが条件となっています。
また、口座開設や受託者が変更になる際に手数料が必要となる場合がありますので、事前に確認が必要です。

ⅴ.受託者による信託財産の管理・運用開始

不動産の名義変更や信託口口座の開設後は、本格的に信託契約の下、受託者の名前で信託財産の管理・運用が始まります。

今まで、委託者個人の名義の口座から引き落としをされていた、支払関係も、受託者名義に変えて信託口口座から引き落としされるように手続きをする必要があります。

また、賃貸不動産の賃料が委託者名義の口座に入金されていたような場合も、信託口口座へ入金されるように入居者へ知らせることを忘れずに行います。

信頼できる専門家に相談することが「よい家族信託」の近道

このように、家族信託に必要な手続きをご説明してきましたが、なにぶん家族信託は先の先まで壮大なスケールで検討しなければいけないのと同時に、専門的な知識や細かな手続きも必要となります。

専門家に依頼した場合は、各専門分野においてのリスクを避けることを考慮して家族信託を設計していくため、やはり高い費用がかかります。
しかし、成年後見制度では家族以外の専門家が、ご本人が亡くなるまで財産を管理することに加え、毎月の報酬もかかります。
例えば、成年後見人の報酬が年間24万円かかるとすると、10年で240万円となります。
さらには、要所要所で家庭裁判所の許可が必要となるため、自由度が低いです。
家族信託は、最初に設計のための報酬がかかりますが、これからの家族のための長期における財産管理と承継の計画が立てられます。
大切な家族のために使う費用と考えると、必ずしも「高すぎる」とは言えないのではないでしょうか。

ぜひとも、家族のために親身に相談に乗ってくれて、先々まであらゆるリスクを考えて、その家族に最適な家族信託を設計、サポートできる専門家を見つけて相談することから始めてはいかがでしょうか。

ソレイユ相続相談室は、先駆的に民事信託の制度に着目し、家族信託の実績が多くあります。
例えば、委託者が事業をしていた場合は事業承継も視野に入れて、税務や法務、提携する士業の専門的な見解を基に総合的なアドバイスが可能です。
ご家族の将来の道筋を立てるために、ぜひ無料相談をご利用ください。

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