家族信託と税金対策

家族信託を相続対策に使う場合の課税の仕組み

家族信託を相続対策に使った場合に、相続税と所得税の課税がどのように行われるのかについて、その仕組みを解説します。

Aさんの考えた家族信託

Aさんは高齢になり、所有するアパートの管理が大変になってきたため、将来このアパートを相続させるつもりの長男に家族信託を使って管理を任せることにしました。

【Aさんの設計した家族信託】

項目 内容
信託財産 Aさん所有のアパート(土地・建物)
信託の目的

アパートの維持管理とAさん夫婦の老後の生活の安定

委託者 Aさん
受託者 長男
受益者 ①Aさん、②Aさんの妻(Aさんの死亡後)
残余財産の帰属先 長男(妻の死亡により信託終了時)

【Aさんが家族信託を活用するねらい】

  • アパートの管理を長男に任せ、名義も「信託譲渡」によって長男に移す。
  • 入居者対応・契約・修繕・納税など、すべて長男が管理。
  • 長男が帳簿作成や確定申告の資料も作成してくれるため、Aさんは収益を受け取るだけでよい。
  • 認知症や入院時も、すでに名義が長男になっているため管理に支障がない。
  • Aさんの死後、受益権は妻に引き継がれる設計なので安心。
  • 妻の死後、信託契約が終了し、信託財産は長男に帰属するよう契約してある。

Aさんの家族信託における課税関係

税法はこのような信託契約に対して、以下のような課税の解釈を行います。

  1. 信託設定時(名義が長男へ移転)
    アパートの収益をAさんが引き続き得る契約であれば、名義が移っても贈与税は課税されない
    ・所得税も、実際に収益を得るAさんが確定申告を行い、税金を支払う。
  2. Aさんの死後、受益者が妻に変わった時
    ・妻が収益を得ることになり、その受益権は相続による取得とみなされ、相続税が課税対象となる。
    ・妻はアパートの収益を得るため、所得税の申告義務も発生。
    ・長男は引き続き受託者の立場であり、他に相続財産がなければこの時点では相続税はかからない
  3. 妻の死後、信託終了時に財産が長男に帰属
    ・所有権が長男に正式に移転されるため、この時点で相続税が課税される
    ・以降は長男がアパート収益を得ることになり、不動産所得として確定申告が必要になる。

家族信託の課税の原則

Aさんの事例からも分かるように、税務では「受益権を誰が持っているか」が重要なポイントです。

  • 受益権に基づいて収益を得る者には、所得税が課税。
  • 受益権が死亡を原因に移転すれば相続税が、無償で生前に移転すれば贈与税が、対価を得て譲渡された場合は譲渡所得税が課税されます。

このように、信託の課税関係は契約の内容や信託の流れによって大きく変わるため、実行前にしっかり確認することが大切です。

家族信託と相続税対策

家族信託そのもので相続税が直接減ることはありませんが、以下のような「相続対策の土台」として大きな効果を発揮します。

  1. 認知症リスクによる対策中断の防止
    相続税対策を進める過程で、病気や怪我、認知症などで判断能力を失っても、家族信託で事前に準備しておけば対策の継続が可能になります。
  2. 遺言代わりの分割対策として有効
    相続開始後の遺産分割争いで、税務特例が使えなくなる事態を避けるために、信託であらかじめ受益者と分配方法を明確にしておくことで、税務上の特例適用をスムーズにします。

まとめ

家族信託は、財産の管理・承継をスムーズにしながら、相続税や所得税の対策にもつながる仕組みです。
ただし、課税関係は契約内容によって複雑に変わるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。

家族信託を相続対策に取り入れたい方は、相続・信託税務に精通した税理士が対応する「ソレイユ相続相談室」にご相談ください。